ALSの運動・筋トレ・リハビリ|負荷の決め方と疲労・呼吸に合わせた調整

ALSの運動・筋トレ・リハビリ

今できる動作を、無理なく暮らしで使うために

動かした方がよいのか。筋トレをすると悪くならないか。疲れた日は休んでよいのか。ALSでは、運動の量や方法で迷うことがあります。

運動は、本人の筋力、呼吸、疲労、生活の負担に合わせて選びます。関節の動きや姿勢を保つケア、補助具の利用、介助の工夫も含めて、毎日の動きやすさを支えることがリハビリの役割です。

運動の後も、必要な生活動作ができることを大切にする

歩行練習ができても、その後の食事や入浴がつらくなるなら、量や方法の見直しが必要です。訓練の成果は、回数や重さだけでなく、暮らしの中で動きやすさを保てているかで考えます。

自分で動かす運動が負担になるときは、介助や道具を使う方法、関節を無理なく動かすケアへ調整できます。主治医や理学療法士・作業療法士と、残したい動作と負担を共有してください。

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  1. ALSの運動・リハビリで目指すこと
  2. 診療指針と研究から分かっていること
  3. 運動を決める前に共有したい状態
  4. 状態に合わせた運動の選び方
  5. 回数・強度・休息の決め方
  6. 負荷を見直すサイン
  7. 家事・通勤・入浴も含めて考える
  8. 呼吸・咳・飲み込みのケア
  9. 家族が手伝うときと補助具の利用
  10. 受診・リハビリで使える記録欄
  11. よくある質問
  12. 関連情報
  13. 参考資料

ALSの運動・リハビリで目指すこと

ALSのリハビリでは、本人が続けたい生活に合わせて目標を決めます。「着替えをしやすくしたい」「移乗の負担を減らしたい」「肩の痛みを軽くしたい」など、具体的な困りごとから考えると、必要な対応を選びやすくなります。

  • 関節の動きを保つ:着替えや清潔ケア、姿勢の調整に必要な動きを保つ。
  • 痛みやこわばりを減らす:姿勢や動かし方、支え方を見直す。
  • 生活動作を続けやすくする:手の使い方、移乗、歩行などを本人の力に合わせる。
  • 疲労と転倒の負担を減らす:休息、補助具、介助を取り入れる。
  • 状態の変化に備える:動きにくさが増えたときに、道具や支援へつなげる。

運動だけでALSの進行を止めたり、失われた運動ニューロンを回復させたりする効果が確立しているわけではありません。一方で、関節の硬さや痛み、生活上の負担に対応することには、病状にかかわらず取り組める余地があります。[1][2]

診療指針と研究から分かっていること

日本神経学会の「筋萎縮性側索硬化症(ALS)診療ガイドライン2023」は、進行の速さ、障害されている部位、呼吸や栄養の状態などを踏まえて、リハビリの内容を調整する考え方を示しています。[1]

欧州の2024年版指針も、関節の動き、拘縮、こわばり、生活機能などを目的とした運動を検討し、本人の能力や疲労、希望に合わせて方法を選ぶ方針です。[2]

運動療法の研究には、機能維持への利益を示唆するものがありますが、研究対象や運動内容には違いがあります。研究で実施されたメニューを、そのまま全員に当てはめることはできません。

「運動をした方がよい」という説明だけでは、本人に合う内容は決まりません。

同じ人でも、手足や体幹で筋力は異なり、体調や生活の予定によって負担は変わります。運動の種類と量を決め、実施後の反応を見て調整することが必要です。

運動を決める前に共有したい状態

新しい運動を始める前や、今の内容が負担になってきたときは、次の項目を主治医やリハビリ職へ伝えます。すべてを自分で測定する必要はありません。

運動内容と生活の負担を一緒に伝える
項目 共有したいこと
動作と筋力 立ち上がり、歩行、腕を上げる動作など、何が難しくなったか。左右差や、支えが必要な場面。
疲労 疲れが出る動作や時間帯。休息で戻るか。運動後の家事・食事・入浴への影響。
呼吸と睡眠 息切れ、横になると苦しい、朝の頭痛、日中の強い眠気、睡眠の変化。
痛みと関節 痛む部位、動かしにくい方向、こわばり、こむら返り、同じ姿勢によるつらさ。
栄養と飲み込み 体重の変化、食事量、食事にかかる時間、むせ、食後の疲労。
転倒と生活環境 つまずき、膝折れ、転びそうになった場面。段差、階段、通勤、家族の介助状況。

状態に合わせた運動の選び方

「筋トレをするか、休むか」だけで考える必要はありません。目的と本人の状態に合わせて、自分で動かす、支えを使う、介助で動かす方法を選びます。

自分の力で無理なく動かせる場合

本人が動かせる範囲での運動や、専門職が適切と判断した抵抗運動・持久的な活動などを検討します。何を何回できたかだけでなく、姿勢が崩れないか、痛みや息苦しさがないか、その後の生活に疲れを残さないかを見ます。

筋力が保たれている部分でも、普段の生活で負担が集中していることがあります。新たな運動を足す前に、現在の活動量を共有してください。

動かせるが、重力や重さが負担になる場合

腕や脚を支える、机の上で滑らせる、介助を受けるなど、負担を減らす方法を専門職と検討します。動かせる範囲を生かしながら、無理な反復や代償動作を減らします。

例えば、腕を上げるために肩や首へ強い力が入る場合は、回数を増やす前に支え方や作業位置を見直します。

自分で動かすことが難しい場合

介助による関節運動、姿勢の調整、クッションなどによる支持を検討します。自分で行う筋力訓練が難しくても、痛みや着替えの負担、姿勢のつらさに対応できる場合があります。

関節を動かすときは、痛みを我慢させたり、硬い部分を力で押し広げたりしません。動かす方向や範囲、支える場所は、理学療法士・作業療法士から具体的に教わってください。

歩行や移動に不安がある場合

つまずきや膝折れが出ている場合は、歩く距離を増やす前に、装具、杖、歩行器、車椅子、介助の必要性を相談します。本人の筋力や腕の力によって、合う道具は変わります。

補助具は、必要な場面で安全と活動範囲を保つための選択肢です。移動の負担を減らすことで、外出先でやりたいことに力を使いやすくなる場合があります。

回数・強度・休息の決め方

このページでは、全員に共通する回数、重量、時間、週の頻度は指定しません。負荷は、運動する部位の筋力、呼吸、疲労、栄養、転倒リスク、普段の活動量を踏まえて決めます。

担当者と、実施内容と見直し方を決めておく

  • 何を目的に、どの運動を行うか。
  • どの姿勢で、どのくらい行い、どこで休むか。
  • どの症状が出たら中止・軽減するか。
  • 体調が悪い日や外出の多い日は、どう変更するか。
  • いつ、誰に経過を伝えて見直すか。

息切れや会話の状態だけで安全を決めない

球症状で話しにくい方もいるため、「会話ができる強度」だけでは適切な判断ができない場合があります。呼吸の状態、本人のつらさ、動作の変化などを合わせて評価します。

休息や介助を、計画の中に入れる

疲れ切る前に区切る、予定の多い日は運動量を減らす、介助を増やすなど、生活に合わせて調整します。回数や重量を毎回増やすことを目標にする必要はありません。

運動後だけでなく、その日の夕方や翌日の状態も振り返ります。ただし、翌日に疲れがなかったことだけで、その運動の安全性が保証されるわけではありません。

負荷を見直すサイン

次のような変化が出る場合は、その場で運動を止めるか軽減し、必要に応じて担当者へ相談します。翌日まで待って判断する必要はありません。

運動中と、その後の生活でみる変化
変化 対応の考え方
息苦しさ、めまい、気分不良 運動を止めて安全な姿勢をとる。強い症状や休んでも改善しない症状は、医療への相談を優先する。
痛み、強いこむら返り、姿勢の崩れ その動作を中断する。重さや回数だけでなく、姿勢、支え方、関節への負担を見直す。
つまずき、膝折れ、転びそうになる 歩行や立位での練習を中断し、介助・補助具・環境を相談する。
運動後に着替えや食事などが難しくなる 訓練と日常動作を合わせた負担を見直す。時間、内容、休息、介助を調整する。
翌日まで強い疲れや動きにくさが残る 同じ負荷を繰り返さず、経過を共有する。運動以外の原因も含めて評価を受ける。

運動後の動作低下を、すべて「過負荷弱化」と断定することはできません。ALSの進行、呼吸や睡眠の問題、感染、栄養状態なども関わるため、続く変化や急な悪化は医療機関へ伝えてください。

ALSで避けたい運動の特徴と、過負荷弱化を考える際の注意点

強い呼吸困難、胸痛、失神、反応が悪い状態、窒息が疑われる状態では、運動の調整より救急対応を優先してください。

家事・通勤・入浴も含めて考える

体への負担は、自主練習の時間だけでは決まりません。階段、通勤、買い物、入浴、家事、通院の移動も含めて、一日の活動を振り返ります。

例えば、通院で長く歩いた日に、普段と同じ自主練習を追加すると、本人にとって負担が大きくなることがあります。運動を続けられない日があっても、生活全体でどのくらい動いたかを担当者へ伝えてください。

  • 立って行う作業を、座ってできるようにする。
  • よく使う物を、手を伸ばしやすい場所へ移す。
  • 外出や入浴の前後に休息を入れる。
  • 移動の一部に補助具や車椅子を使う。
  • 負担が集中する動作を、家族や支援者に手伝ってもらう。

こうした工夫もリハビリの一部です。自分が大切にしたい活動へ力を使えるように、作業療法士や支援者と生活の組み立てを相談できます。

呼吸・咳・飲み込みのケア

手足の運動と、呼吸の評価は分けて考える

手足を動かす運動をしていても、呼吸機能が十分に保たれているとは限りません。息切れ、横になると苦しい、朝の頭痛、日中の強い眠気、咳の弱さなどがある場合は、呼吸の評価を相談してください。

呼吸筋の訓練を自己判断で増やしたり、息を長く止める練習で対応したりせず、呼吸の状態と使用中の機器を踏まえた判断を受けます。NIVなどの換気補助や排痰支援は、それぞれの状態に応じて検討される医療上の対応です。[1][2]

むせが増えたときは、飲み込みの評価へつなげる

食事中のむせ、食事時間の延長、食後の疲れ、体重減少がある場合は、主治医や言語聴覚士へ相談します。手足の運動を調整することだけでは、飲み込みの問題に十分対応できません。

食形態や姿勢、介助、栄養の取り方は、本人の評価に合わせて決めます。飲み込みや舌の反復練習を、自己判断で追加することは避けてください。

家族が手伝うときと補助具の利用

介助による運動や移乗は、本人だけでなく家族の負担にも関わります。家族が継続できるか、腰や肩を痛めていないかも含めて相談してください。

腕を引いて立たせる、痛む関節を強く動かすなど、本人と介助者の双方に負担がかかる方法は見直します。支える場所、ベッドや椅子の高さ、移乗用具の使い方を、専門職と実際の場面で練習すると共有しやすくなります。

装具や車椅子、移乗用具などは、必要になってから準備に時間がかかる場合があります。今の困りごとと今後の変化を踏まえ、早めに相談しておくことが役立ちます。

受診・リハビリで使える記録欄

運動をしたかどうかに加え、実施後の生活がどうだったかを残します。すべての項目を毎回埋める必要はありません。担当者と相談し、負担なく記録できる項目を選んでください。

コピー用の欄です。このページから送信・保存されません。記録だけで過負荷や病気の進行を診断することはできません。急な不調は記録を続けて様子をみず、医療機関へ相談してください。

よくある質問

ALSでも筋トレをしてよいのでしょうか?

抵抗運動が選択肢になる場合はあります。ただし、すべての筋肉や病状に同じ方法が合うわけではありません。部位ごとの筋力、疲労、呼吸、生活の負担を評価し、担当者と内容を決めます。弱い筋肉を限界まで追い込む方法は避けてください。

毎日行わないと、筋力が落ちてしまいますか?

毎日同じ筋力訓練を行うことが、全員に必要なわけではありません。関節のケア、筋力を使う運動、生活動作では目的も負担も異なります。休息や体調に応じた変更を含めて計画します。

翌日に疲れがなければ、運動量を増やしてよいですか?

翌日の疲れだけでは決められません。運動中の姿勢、痛み、息苦しさ、転倒、当日の生活への影響も見ます。増やしたい場合は、目的と現在の状態を担当者に伝えて相談してください。

運動した後に動きにくくなりました。ALSが進んだのでしょうか?

運動後の変化だけで、病気の進行か、疲労や負荷の影響かを判断することはできません。運動内容と経過を共有し、呼吸、睡眠、感染、栄養なども含めて評価を受けます。急な悪化や強い症状は、早めに医療機関へ相談してください。

車椅子を使うようになっても、リハビリは役立ちますか?

座位姿勢、痛み、関節の動き、移乗、着替え、介助の負担など、対応できる課題があります。歩行練習だけに目標を置かず、本人が過ごしやすく、介助も続けやすい方法を考えます。

生活を支えるために、運動の方法を変えてよい

自分で動かす運動、支えを使った運動、介助によるケア、補助具の利用は、そのときの状態に合わせて組み合わせられます。

大切なのは、本人が続けたい動作を支え、痛みや疲れ、転倒の負担を減らすことです。今の方法が合わなくなったら、回数を頑張って保つ前に、担当者と内容を見直してください。

参考資料

  1. 日本神経学会監修.筋萎縮性側索硬化症(ALS)診療ガイドライン2023.南江堂.2023.
    日本神経学会公開PDF
  2. Van Damme P, et al. European Academy of Neurology (EAN) guideline on the management of amyotrophic lateral sclerosis in collaboration with European Reference Network for Neuromuscular Diseases (ERN EURO-NMD). Eur J Neurol. 2024;31:e16264. DOI: 10.1111/ene.16264.
    欧州2024年版ALS診療指針
  3. 難病情報センター.筋萎縮性側索硬化症(ALS)(指定難病2).
    病気の解説・療養に関する情報

本文更新:2026年10月26日。一般的な医学情報であり、個別の運動処方ではありません。運動内容、呼吸・嚥下の対応、装具や介助方法は、本人の状態に合わせて主治医と専門職へ相談してください。