ALSの運動・筋トレ・リハビリ
今できる動作を、無理なく暮らしで使うために
動かした方がよいのか。筋トレをすると悪くならないか。疲れた日は休んでよいのか。ALSでは、運動の量や方法で迷うことがあります。
運動は、本人の筋力、呼吸、疲労、生活の負担に合わせて選びます。関節の動きや姿勢を保つケア、補助具の利用、介助の工夫も含めて、毎日の動きやすさを支えることがリハビリの役割です。
運動の後も、必要な生活動作ができることを大切にする
歩行練習ができても、その後の食事や入浴がつらくなるなら、量や方法の見直しが必要です。訓練の成果は、回数や重さだけでなく、暮らしの中で動きやすさを保てているかで考えます。
自分で動かす運動が負担になるときは、介助や道具を使う方法、関節を無理なく動かすケアへ調整できます。主治医や理学療法士・作業療法士と、残したい動作と負担を共有してください。
目次を開く・閉じる
ALSの運動・リハビリで目指すこと
ALSのリハビリでは、本人が続けたい生活に合わせて目標を決めます。「着替えをしやすくしたい」「移乗の負担を減らしたい」「肩の痛みを軽くしたい」など、具体的な困りごとから考えると、必要な対応を選びやすくなります。
- 関節の動きを保つ:着替えや清潔ケア、姿勢の調整に必要な動きを保つ。
- 痛みやこわばりを減らす:姿勢や動かし方、支え方を見直す。
- 生活動作を続けやすくする:手の使い方、移乗、歩行などを本人の力に合わせる。
- 疲労と転倒の負担を減らす:休息、補助具、介助を取り入れる。
- 状態の変化に備える:動きにくさが増えたときに、道具や支援へつなげる。
運動だけでALSの進行を止めたり、失われた運動ニューロンを回復させたりする効果が確立しているわけではありません。一方で、関節の硬さや痛み、生活上の負担に対応することには、病状にかかわらず取り組める余地があります。[1][2]
診療指針と研究から分かっていること
日本神経学会の「筋萎縮性側索硬化症(ALS)診療ガイドライン2023」は、進行の速さ、障害されている部位、呼吸や栄養の状態などを踏まえて、リハビリの内容を調整する考え方を示しています。[1]
欧州の2024年版指針も、関節の動き、拘縮、こわばり、生活機能などを目的とした運動を検討し、本人の能力や疲労、希望に合わせて方法を選ぶ方針です。[2]
運動療法の研究には、機能維持への利益を示唆するものがありますが、研究対象や運動内容には違いがあります。研究で実施されたメニューを、そのまま全員に当てはめることはできません。
「運動をした方がよい」という説明だけでは、本人に合う内容は決まりません。
同じ人でも、手足や体幹で筋力は異なり、体調や生活の予定によって負担は変わります。運動の種類と量を決め、実施後の反応を見て調整することが必要です。
運動を決める前に共有したい状態
新しい運動を始める前や、今の内容が負担になってきたときは、次の項目を主治医やリハビリ職へ伝えます。すべてを自分で測定する必要はありません。
| 項目 | 共有したいこと |
|---|---|
| 動作と筋力 | 立ち上がり、歩行、腕を上げる動作など、何が難しくなったか。左右差や、支えが必要な場面。 |
| 疲労 | 疲れが出る動作や時間帯。休息で戻るか。運動後の家事・食事・入浴への影響。 |
| 呼吸と睡眠 | 息切れ、横になると苦しい、朝の頭痛、日中の強い眠気、睡眠の変化。 |
| 痛みと関節 | 痛む部位、動かしにくい方向、こわばり、こむら返り、同じ姿勢によるつらさ。 |
| 栄養と飲み込み | 体重の変化、食事量、食事にかかる時間、むせ、食後の疲労。 |
| 転倒と生活環境 | つまずき、膝折れ、転びそうになった場面。段差、階段、通勤、家族の介助状況。 |
状態に合わせた運動の選び方
「筋トレをするか、休むか」だけで考える必要はありません。目的と本人の状態に合わせて、自分で動かす、支えを使う、介助で動かす方法を選びます。
自分の力で無理なく動かせる場合
本人が動かせる範囲での運動や、専門職が適切と判断した抵抗運動・持久的な活動などを検討します。何を何回できたかだけでなく、姿勢が崩れないか、痛みや息苦しさがないか、その後の生活に疲れを残さないかを見ます。
筋力が保たれている部分でも、普段の生活で負担が集中していることがあります。新たな運動を足す前に、現在の活動量を共有してください。
動かせるが、重力や重さが負担になる場合
腕や脚を支える、机の上で滑らせる、介助を受けるなど、負担を減らす方法を専門職と検討します。動かせる範囲を生かしながら、無理な反復や代償動作を減らします。
例えば、腕を上げるために肩や首へ強い力が入る場合は、回数を増やす前に支え方や作業位置を見直します。
自分で動かすことが難しい場合
介助による関節運動、姿勢の調整、クッションなどによる支持を検討します。自分で行う筋力訓練が難しくても、痛みや着替えの負担、姿勢のつらさに対応できる場合があります。
関節を動かすときは、痛みを我慢させたり、硬い部分を力で押し広げたりしません。動かす方向や範囲、支える場所は、理学療法士・作業療法士から具体的に教わってください。
歩行や移動に不安がある場合
つまずきや膝折れが出ている場合は、歩く距離を増やす前に、装具、杖、歩行器、車椅子、介助の必要性を相談します。本人の筋力や腕の力によって、合う道具は変わります。
補助具は、必要な場面で安全と活動範囲を保つための選択肢です。移動の負担を減らすことで、外出先でやりたいことに力を使いやすくなる場合があります。
回数・強度・休息の決め方
このページでは、全員に共通する回数、重量、時間、週の頻度は指定しません。負荷は、運動する部位の筋力、呼吸、疲労、栄養、転倒リスク、普段の活動量を踏まえて決めます。
担当者と、実施内容と見直し方を決めておく
- 何を目的に、どの運動を行うか。
- どの姿勢で、どのくらい行い、どこで休むか。
- どの症状が出たら中止・軽減するか。
- 体調が悪い日や外出の多い日は、どう変更するか。
- いつ、誰に経過を伝えて見直すか。
息切れや会話の状態だけで安全を決めない
球症状で話しにくい方もいるため、「会話ができる強度」だけでは適切な判断ができない場合があります。呼吸の状態、本人のつらさ、動作の変化などを合わせて評価します。
休息や介助を、計画の中に入れる
疲れ切る前に区切る、予定の多い日は運動量を減らす、介助を増やすなど、生活に合わせて調整します。回数や重量を毎回増やすことを目標にする必要はありません。
運動後だけでなく、その日の夕方や翌日の状態も振り返ります。ただし、翌日に疲れがなかったことだけで、その運動の安全性が保証されるわけではありません。
負荷を見直すサイン
次のような変化が出る場合は、その場で運動を止めるか軽減し、必要に応じて担当者へ相談します。翌日まで待って判断する必要はありません。
| 変化 | 対応の考え方 |
|---|---|
| 息苦しさ、めまい、気分不良 | 運動を止めて安全な姿勢をとる。強い症状や休んでも改善しない症状は、医療への相談を優先する。 |
| 痛み、強いこむら返り、姿勢の崩れ | その動作を中断する。重さや回数だけでなく、姿勢、支え方、関節への負担を見直す。 |
| つまずき、膝折れ、転びそうになる | 歩行や立位での練習を中断し、介助・補助具・環境を相談する。 |
| 運動後に着替えや食事などが難しくなる | 訓練と日常動作を合わせた負担を見直す。時間、内容、休息、介助を調整する。 |
| 翌日まで強い疲れや動きにくさが残る | 同じ負荷を繰り返さず、経過を共有する。運動以外の原因も含めて評価を受ける。 |
運動後の動作低下を、すべて「過負荷弱化」と断定することはできません。ALSの進行、呼吸や睡眠の問題、感染、栄養状態なども関わるため、続く変化や急な悪化は医療機関へ伝えてください。
強い呼吸困難、胸痛、失神、反応が悪い状態、窒息が疑われる状態では、運動の調整より救急対応を優先してください。
家事・通勤・入浴も含めて考える
体への負担は、自主練習の時間だけでは決まりません。階段、通勤、買い物、入浴、家事、通院の移動も含めて、一日の活動を振り返ります。
例えば、通院で長く歩いた日に、普段と同じ自主練習を追加すると、本人にとって負担が大きくなることがあります。運動を続けられない日があっても、生活全体でどのくらい動いたかを担当者へ伝えてください。
- 立って行う作業を、座ってできるようにする。
- よく使う物を、手を伸ばしやすい場所へ移す。
- 外出や入浴の前後に休息を入れる。
- 移動の一部に補助具や車椅子を使う。
- 負担が集中する動作を、家族や支援者に手伝ってもらう。
こうした工夫もリハビリの一部です。自分が大切にしたい活動へ力を使えるように、作業療法士や支援者と生活の組み立てを相談できます。
呼吸・咳・飲み込みのケア
手足の運動と、呼吸の評価は分けて考える
手足を動かす運動をしていても、呼吸機能が十分に保たれているとは限りません。息切れ、横になると苦しい、朝の頭痛、日中の強い眠気、咳の弱さなどがある場合は、呼吸の評価を相談してください。
呼吸筋の訓練を自己判断で増やしたり、息を長く止める練習で対応したりせず、呼吸の状態と使用中の機器を踏まえた判断を受けます。NIVなどの換気補助や排痰支援は、それぞれの状態に応じて検討される医療上の対応です。[1][2]
むせが増えたときは、飲み込みの評価へつなげる
食事中のむせ、食事時間の延長、食後の疲れ、体重減少がある場合は、主治医や言語聴覚士へ相談します。手足の運動を調整することだけでは、飲み込みの問題に十分対応できません。
食形態や姿勢、介助、栄養の取り方は、本人の評価に合わせて決めます。飲み込みや舌の反復練習を、自己判断で追加することは避けてください。
家族が手伝うときと補助具の利用
介助による運動や移乗は、本人だけでなく家族の負担にも関わります。家族が継続できるか、腰や肩を痛めていないかも含めて相談してください。
腕を引いて立たせる、痛む関節を強く動かすなど、本人と介助者の双方に負担がかかる方法は見直します。支える場所、ベッドや椅子の高さ、移乗用具の使い方を、専門職と実際の場面で練習すると共有しやすくなります。
装具や車椅子、移乗用具などは、必要になってから準備に時間がかかる場合があります。今の困りごとと今後の変化を踏まえ、早めに相談しておくことが役立ちます。
受診・リハビリで使える記録欄
運動をしたかどうかに加え、実施後の生活がどうだったかを残します。すべての項目を毎回埋める必要はありません。担当者と相談し、負担なく記録できる項目を選んでください。
コピー用の欄です。このページから送信・保存されません。記録だけで過負荷や病気の進行を診断することはできません。急な不調は記録を続けて様子をみず、医療機関へ相談してください。
よくある質問
ALSでも筋トレをしてよいのでしょうか?
抵抗運動が選択肢になる場合はあります。ただし、すべての筋肉や病状に同じ方法が合うわけではありません。部位ごとの筋力、疲労、呼吸、生活の負担を評価し、担当者と内容を決めます。弱い筋肉を限界まで追い込む方法は避けてください。
毎日行わないと、筋力が落ちてしまいますか?
毎日同じ筋力訓練を行うことが、全員に必要なわけではありません。関節のケア、筋力を使う運動、生活動作では目的も負担も異なります。休息や体調に応じた変更を含めて計画します。
翌日に疲れがなければ、運動量を増やしてよいですか?
翌日の疲れだけでは決められません。運動中の姿勢、痛み、息苦しさ、転倒、当日の生活への影響も見ます。増やしたい場合は、目的と現在の状態を担当者に伝えて相談してください。
運動した後に動きにくくなりました。ALSが進んだのでしょうか?
運動後の変化だけで、病気の進行か、疲労や負荷の影響かを判断することはできません。運動内容と経過を共有し、呼吸、睡眠、感染、栄養なども含めて評価を受けます。急な悪化や強い症状は、早めに医療機関へ相談してください。
車椅子を使うようになっても、リハビリは役立ちますか?
座位姿勢、痛み、関節の動き、移乗、着替え、介助の負担など、対応できる課題があります。歩行練習だけに目標を置かず、本人が過ごしやすく、介助も続けやすい方法を考えます。
生活を支えるために、運動の方法を変えてよい
自分で動かす運動、支えを使った運動、介助によるケア、補助具の利用は、そのときの状態に合わせて組み合わせられます。
大切なのは、本人が続けたい動作を支え、痛みや疲れ、転倒の負担を減らすことです。今の方法が合わなくなったら、回数を頑張って保つ前に、担当者と内容を見直してください。
関連情報
参考資料
-
日本神経学会監修.筋萎縮性側索硬化症(ALS)診療ガイドライン2023.南江堂.2023.
日本神経学会公開PDF -
Van Damme P, et al. European Academy of Neurology (EAN) guideline on the management of amyotrophic lateral sclerosis in collaboration with European Reference Network for Neuromuscular Diseases (ERN EURO-NMD). Eur J Neurol. 2024;31:e16264. DOI: 10.1111/ene.16264.
欧州2024年版ALS診療指針 -
難病情報センター.筋萎縮性側索硬化症(ALS)(指定難病2).
病気の解説・療養に関する情報
本文更新:2026年10月26日。一般的な医学情報であり、個別の運動処方ではありません。運動内容、呼吸・嚥下の対応、装具や介助方法は、本人の状態に合わせて主治医と専門職へ相談してください。
