本稿では、ALS(筋萎縮性側索硬化症)における進行停止と機能回復の可能性について、当研究所が重視する「磁力による深部誘導電流」と、施術を通じて見いだしてきた「左側への反応の偏り」「脳幹と脊髄の関係」「介入前後の身体の変化」を結び付けた仮説を提示します。
出発点は、ALSの方々と実際に向き合い、手指とツールを経由して伝わる生体情報と、その変化に伴う動作や身体の状態の変化を捉えてきた経験です。私たちは、そこにALSの機能回復を考えるうえで重要な発見につながる現象があると考えています。世界の研究者にも検討していただきたいのは、何が変化し、なぜ変化するのか、そしてその変化を持続させる条件は何かという問いです。
本文の「生体情報」「ノイズ」は、施術者が手指・ツールを介して捉える感覚的な反応を表す当研究所の用語です。その反応を脳幹・脊髄や細胞の状態と結び付ける部分は、私たちの作業仮説に当たります。公表研究の知見は出典を添えて紹介し、当研究所の観察と区別します。
1. TDP-43凝集体への物理的介入
ALSの多くでは、通常は主に細胞核で働くタンパク質「TDP-43」が核から失われ、細胞質に異常に蓄積する病理が認められます。核は細胞の遺伝情報を管理する場所で、TDP-43はその情報から必要なタンパク質を作る過程に関わっています。したがって問題は、凝集体が存在することと、本来の場所で必要な働きが失われることの両方にあります。[1]
当研究所が追究しているのは、神経細胞が残っていても、細胞内の輸送や電気的な応答が妨げられ、十分に働けなくなっている部分に介入できないかという可能性です。異常タンパク質の処理と、残存する神経の機能を呼び起こすことを、一続きの課題として考えています。
深部誘導電流によるアプローチ
変動する磁場は、ファラデーの電磁誘導の法則に従って電場を生じさせます。生体内では、その電場と組織の電気的性質に応じて電流が生じます。磁石を動かす場合も、組織から見た磁束が時間とともに変われば誘導の条件になります。
私たちは、この作用によって深部の細胞内環境に変化を与え、異常タンパク質の結合や凝集状態への物理的な作用、オートファジーなどの処理機構、神経の電気的な応答性に働きかけられるのではないかと考えています。原理の中心に置いているのは、凝集体への「物理的な揺さぶり」と、細胞自身が処理できる環境の回復です。
電磁誘導という物理現象と、当研究所の介入がTDP-43の分解を起こすという機序は、検証段階が異なります。後者を確かめるには、使用条件下の誘導電場・電流の測定と、細胞内のTDP-43や処理機構の変化を対応させる必要があります。
機能を取り戻せる神経が残っている可能性
2015年のマウス研究では、症状出現後に病的なTDP-43の発現を抑えると、細胞質の病理が軽減し、筋への再支配や運動機能の回復が認められました。これは遺伝子発現を制御した実験ですが、発症後にも回復に寄与できる神経機能が残る可能性を示しています。[2]
また、TDP-43の機能低下は、軸索の維持・修復に関わるSTMN2の正常な産生を妨げます。ヒト由来の運動ニューロンを用いた研究では、STMN2を補うことで軸索再生の障害が改善しました。機能回復を考える際には、凝集体の処理に加えて、細胞が修復に必要なタンパク質を再び作れるかという視点も必要です。[3]
ALSリバーサルという言葉の意味や報告例については、ALSの回復例・リバーサルに関する解説でも扱っています。
2. 「活動依存的」な神経変性と左半球・脳幹左側の脆弱性
当研究所の施術上の観察では、利き手にかかわらず、左半球・脳幹左側に対応すると私たちが考える反応が目立つケースが多いという印象があります。この左右差は、私たちが介入の部位や順序を考える重要な手がかりです。
その背景として注目しているのが、「よく使う部位ほど、代謝負荷や興奮性の変化の影響を受けやすいのではないか」という活動依存性の仮説です。左側への着目を、単なる左右の違いで終わらせず、細胞のエネルギー需要、神経の興奮、血管の状態から検討したいと考えています。
高頻度の活動と代謝ストレス
言語や手の精密な運動には、特定の神経ネットワークの繰り返しの活動が必要です。その活動を支えるには、エネルギー供給と、興奮性の伝達物質や細胞内カルシウムを適切に調節する働きが欠かせません。私たちは、これらの調節が弱まった条件で高い活動が続けば、興奮毒性や酸化ストレスが局所に集中するのではないかと考えています。
ただし、言語の左半球優位だけで、すべてのALSの左側の脆弱性を説明することはできません。発症側、利き手、症状の種類と、施術上捉える左右差がどのように対応するかが検討課題です。
2025年の研究:TDP-43と神経の電気的な異常を結ぶKCNQ2
2025年に公表された研究では、TDP-43の機能異常によってKCNQ2という遺伝子のRNA処理に異常が生じ、神経の興奮を調節するカリウムチャネルの働きが損なわれる仕組みが報告されました。患者の死後組織と細胞モデルを調べ、培養神経細胞ではRNA処理の修正によって過剰な興奮が改善しています。[4]
この研究は、タンパク質の病理と電気的な機能不全が結び付いていることを具体的に示します。当研究所の磁気介入の効果を確かめた研究ではありませんが、私たちが「電気的な状態」を重視する仮説を掘り下げるうえで、重要な研究上の接点です。
血液脳関門・血液脊髄関門と流入リスク
脳や脊髄の血管には、血液中の物質の移動を調節する関門があります。ALSのヒト脊髄組織を調べた研究では、血液脊髄関門の破綻や、その維持に関わる周皮細胞の減少が報告されています。[5]
ここから私たちは、局所の活動と血流、関門の状態が重なったとき、炎症性物質や免疫反応に関わる物質の影響を受けやすくなる可能性を考えています。潜伏ウイルスの再活性化やウイルス由来成分も、この観点から検討したい要素です。それらが左側に優先的に作用するかは、当研究所の左右差の観察から提起している、さらに一段先の仮説です。
左大脳から脳幹左側への連続性も、私たちが注目する点です。ただし神経経路には交叉や両側性の投射があり、左側を一本の経路として扱うことはできません。公表された左右差の研究でも、発症側によって異なる所見が示されています。[6] どのネットワークに沿って変化が現れるのかを特定できれば、介入部位を選ぶ理由をより明確にできると考えています。
3. 生体エネルギーと「電気伝導性」の物理的最適化
当研究所では、磁気による介入に先立ち、独自に「生体エネルギー照射」と呼ぶ工程を重視しています。これは、受け手である身体の状態を整えることで、その後の介入への応答が変わるという施術上の経験に基づくものです。
この変化を物理的に説明する候補として考えているのが、神経周辺の電気伝導性です。組織の導電率やイオン環境が変化すれば、同じ外部条件でも内部の電流分布や細胞の応答が変わる可能性があります。私たちは、準備工程と磁気介入を組み合わせる意味を、こうした身体側の条件から捉えています。
水の導電率を調べた先行研究
佐々木茂美氏らによる1993年の「気功水の電導率変化から見た気の性質」は、気功師による外気照射と水の導電率の変化を調べた研究です。報告では導電率の上昇だけでなく、不変や低下も扱われ、精製水では影響がみられない傾向も記されています。[7]
この研究は、施術で感じる変化を物理量で調べようとする先行例として参照しています。水での測定結果を人体の神経にそのまま当てはめず、当研究所の工程についても、導電率や温度など何が変化しているのかを調べることが次の課題です。
単純化した局所モデルでは、電流密度J、導電率σ、電場Eの関係はJ=σEと表されます。一方、実際の身体では組織の形や方向、境界も影響します。導電率の変化は、磁場そのものをより深く通すことと同じではありません。身体側の電気的条件を整え、介入への応答を高められるかという形で、この仮説を検討しています。
4. 解剖学的深度と「磁場の逆3乗の法則」
当研究所が介入条件を考える際、重視しているのが、磁気の発生源から対象組織までの距離です。頸部では筋層や骨格、対象とする部位によって距離が変わります。身体の表面に同じようにツールを当てても、深部の条件まで同じになるとは限りません。
頸部と仙骨部で介入条件が異なるという視点
私たちは、頸部と仙骨周辺で捉えられる反応や機能変化の違いを、組織までの距離の違いと結び付けて考えてきました。原理を考える例として、対象までの距離が「8cm」と「3cm」の場合を比較します。この数値は全員に共通する解剖学的な深さを示すものではありません。
また、仙骨周辺の神経根と、脊柱管内の脊髄は区別する必要があります。成人の脊髄は通常、上部腰椎付近で終わり、その下を神経根が走ります。「仙骨部への介入」は、腰仙髄の神経細胞に同じ位置から直接介入することと同義ではありません。
3cmと8cmでは、何が約19倍違うのか
磁石を双極子として近似できる十分離れた位置で、同じ方向を比較する場合、磁束密度Bは発生源からの距離rの3乗に反比例します。
B ∝ 1 / r³
B(8cm)/ B(3cm)=(3 / 8)³ ≒ 1 / 19
この計算が表すのは磁束密度の比です。身体に与えられるエネルギーや機能改善の大きさが19分の1になるという意味ではありません。実際の磁石の近くでは形状や大きさの影響があり、距離も皮膚からではなく発生源との関係で決まります。誘導電場には磁場の時間変化や組織の形状も関わります。[8]
それでも、深い部位ほど、表面での強さだけでは介入条件を判断できないという着眼点は重要です。下肢側で機能変化を捉えやすいとする私たちの経験を検討するには、距離に加え、対象が神経根なのか脊髄なのか、どの方向にどの程度の場が生じるのかを調べる必要があります。
5. 進行ルートの空間的リスク:上行性と双方向性
ALSの変化が広がる方向と、介入を考える神経組織の範囲も、当研究所の戦略を構成する要素です。発症した手足の機能だけに注目すると、離れた部位で進む変化を見落とすのではないかと考えています。
下肢発症:上行する変化を想定する
下肢から始まった方では、腰仙髄に関係する機能の変化を起点に、上方の領域へ広がる可能性を意識しています。脳幹に関わる機能が保たれている間に、局所の応答と全身の状態の両方に着目するという発想です。これは、下肢発症なら必ず時間的な猶予があるという予後の判定ではありません。
上肢発症:上下の領域を並行して考える
上肢から始まった方では、頸髄に関係する機能に加え、下肢側と脳幹側の両方の変化を意識しています。私たちが「双方向性のリスク」と呼ぶのは、この介入範囲の考え方です。頸部と脳幹の近さに注目していますが、距離だけで球症状や呼吸機能低下の時期が決まるわけではありません。
公表研究でも、発症部位から別の領域へ症状が広がる順序や、その時間間隔が検討されています。[9] 当研究所の空間的な仮説を深めるには、実際の機能変化の順序と対応させることが重要です。
「ニューロン・マス」という言葉で表しているのは、介入対象となる神経組織の広がりにも目を向けるという意図です。脊髄の太さは単純に脳へ近づくほど増すわけではなく、頸膨大・腰仙膨大などの構造があります。したがって、局所の体積だけで必要な介入量を決めず、対象とする経路の範囲や深さを考慮するという仮説として位置付けています。
6. 脳幹戦略:長期安定を支える「橋」と状態を捉える「延髄」
当研究所が特に重視しているのは、脊髄側の機能変化と、脳幹側の状態を分けて考えることです。目の前の動作が改善しても、その状態が持続するとは限りません。持続性の違いを説明する鍵が、脳幹、とりわけ「橋」にあるのではないかと考えています。
橋:再進行を食い止める「最上流のダム」という仮説
私たちの施術上の観察では、明らかな機能低下として表れるより前から、橋や脊髄の領域に対応すると捉える反応が現れることがあります。ここでいう「ノイズ」は、手指やツールを介して感じる反応であり、その変化を介入の手がかりにしています。
脊髄側へのアプローチで機能が変わっても、橋に対応する反応が残る場合には、回復が持続しにくいのではないか。これが、当研究所の脳幹戦略の中心となる問いです。橋の安定化を、上流からの再進行を抑える「ダム」として重視する理由もここにあります。
この比喩は、橋が全身の運動を単独で制御するという解剖学的な説明ではありません。局所への介入に加え、ネットワークの別の部分にも介入することで、機能変化を持続させられるのではないかという、当研究所独自のモデルです。
脳幹への着目と公表研究の接点
ALSの死後組織を調べたTDP-43病理の研究では、比較的病理の広がりが限られた段階から、運動皮質、脊髄の運動ニューロンに加え、脳幹の運動神経核にも病理が認められています。[10] これは脳幹を含む複数領域に目を向ける根拠になります。
一方、橋が再進行の起点になるという当研究所のモデルを確かめるには、橋に対応すると捉える反応と、その後の機能の持続性を照合する必要があります。研究上は、この対応関係自体が重要な検証対象です。
延髄:構音の変化と局所の反応を結び付ける
延髄については、発話や嚥下の状態と、私たちが局所で捉える反応との対応を重視しています。特に、次のような構音の違いが、異なる部位の反応と結び付くのではないかと考えています。
- さ行(S音)の歪みと、延髄上部に対応すると捉える反応:空気が漏れるような発音や、摩擦音を作りにくい変化。
- ら行(R音)の歪みと、延髄下部に対応すると捉える反応:舌を素早く接触させる動きの難しさや、発音が重たくなる変化。
この上下の対応は、当研究所が検討している仮説です。構音には舌、口唇、軟口蓋、呼吸などが協調して働くため、音の違いだけを障害部位の判定に使うものではありません。音声の分析や専門的な構音評価と照合することで、施術時に捉える違いを具体的な研究課題にできると考えています。
7. 物理的連鎖による「不可逆」への挑戦
当研究所の仮説は、「脊髄側で機能を呼び起こすこと」と「橋を含む脳幹側の状態を安定させること」を組み合わせる点にあります。前者を実行部の修復、後者を制御に関わるネットワークの安定として捉え、その両方が噛み合ったときに、機能回復が連鎖し、持続する可能性を考えています。
私たちが「不可逆」に問いを投げかけるのは、施術の前後で身体の変化を実際に見てきたからです。その経験を科学の言葉で説明するには、まだ埋めるべき部分があります。だからこそ、観察を起点とした仮説を示し、どの現象がどの機序と対応するのかを研究の対象にしたいと考えています。
食欲と体重の推移
機能の変化とともに、私たちが重視しているのが食欲や体重の推移です。たとえば「1か月で2kg増えた」という変化があれば、食事量や日常動作、疲労の変化と合わせて、身体の状態がどのように変わったかを考えます。
体重増加は、それだけで神経の修復を示す指標ではありません。水分、脂肪、筋肉など、何が増えたかによって意味が異なります。それでも、食べられる量や体重が低下していた方で、その傾向が変わることは、生活と身体の両面から注目すべき変化です。「月2kg」を全員の目標やリバーサルの判定基準にする意図ではありません。
生体情報と分子レベルの変化を結び付ける研究へ
2024年には、TDP-43のRNA処理機能が失われることで生じるHDGFL2の異常なタンパク質断片を、体液中で捉える研究が報告されました。散発性ALSや遺伝性ALS・FTDに加え、発症前のC9orf72変異保有者でも調べられています。[11]
こうした研究用の指標が発展すれば、将来、施術者が捉える反応、客観的な運動機能、分子レベルの変化を照合する研究も考えられます。当研究所の反応とこの指標の対応が、すでに確かめられているという意味ではありません。
具体的には、同じ条件で複数の評価者が同じ反応を捉えられるか、介入条件を変えたときに反応と機能が一緒に変わるか、橋に着目した介入が機能変化の持続性に関係するか。このような問いを順に検討することで、私たちの経験を他の研究者が検証できる知見へと発展させたいと考えています。
現場で捉えてきた変化を、まだ説明できないという理由で見過ごさず、その仕組みを明らかにする。それが本稿の目的です。ALSの機能回復について、神経科学、電磁場解析、生体計測などの分野から検討が進むことを願っています。
本稿は、当研究所の観察から提起する研究仮説です。当研究所の方法によるALSの進行停止・神経再生・TDP-43分解が臨床研究で確立したことを示すものではありません。実際の療養では、主治医による診療と呼吸・栄養・嚥下などの支援を継続し、追加の選択肢を検討してください。
研究所の理論・症例とALSの療養情報
参考文献
- Neumann M, et al. Ubiquitinated TDP-43 in frontotemporal lobar degeneration and amyotrophic lateral sclerosis. Science. 2006.
- Walker AK, et al. Functional recovery in new mouse models of ALS/FTLD after clearance of pathological cytoplasmic TDP-43. Acta Neuropathologica. 2015.
- Melamed Z, et al. Premature polyadenylation-mediated loss of stathmin-2 is a hallmark of TDP-43-dependent neurodegeneration. Nature Neuroscience. 2019.
- Joseph BJ, et al. TDP-43-dependent mis-splicing of KCNQ2 triggers intrinsic neuronal hyperexcitability in ALS/FTD. Nature Neuroscience. 2025.
- Winkler EA, et al. Blood–spinal cord barrier breakdown and pericyte reductions in amyotrophic lateral sclerosis. Acta Neuropathologica. 2013.
- Devine MS, et al. Exposing asymmetric gray matter vulnerability in amyotrophic lateral sclerosis. 2015.
- 佐々木茂美・佐古曜一郎・小林泰樹.気功水の電導率変化から見た気の性質.人体科学.1993.
- Janssen AM, et al. The effect of local anatomy on the electric field induced by TMS: evaluation at 14 different target sites. Medical & Biological Engineering & Computing. 2014.
- Fujimura-Kiyono C, et al. Onset and spreading patterns of lower motor neuron involvements predict survival in sporadic amyotrophic lateral sclerosis. Journal of Neurology, Neurosurgery & Psychiatry. 2011.
- Brettschneider J, et al. Stages of pTDP-43 pathology in amyotrophic lateral sclerosis. Annals of Neurology. 2013.
- Irwin KE, et al. A fluid biomarker reveals loss of TDP-43 splicing repression in presymptomatic ALS–FTD. Nature Medicine. 2024.
