ALSでは、体重減少や食事量低下が「いつの間にか進んでいた」という形で起こりやすく、呼吸・嚥下・疲労とも絡みます。 このページは、栄養・体重・水分・胃ろう(PEG)を、当事者と家族が現実的に運用できる形で整理したガイドです。
医学的判断(検査・治療方針・手技の適応・緊急性の判断)は主治医の判断を最優先してください。本ページは情報整理です。
なぜALSで「体重」が重要なのか
ALSの体重減少は、食べにくさ(嚥下)、筋量低下、活動量低下だけでなく、病態に伴う代謝変化(ハイパーメタボリズム)が関与し得ることが議論されています。 体重・栄養状態の悪化は予後と関連する可能性があり、栄養介入は標準的ケアの重要な柱です。 代謝と体重変化の背景:https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6166607/
- 当事者が困る現象:食事が遅い、疲れて食べ切れない、水分が取りにくい、体重が落ちる
- 放置しやすい理由:本人は「食べているつもり」、家族は「食べさせる圧」が増える
- 実務の要点:体重・食事量・むせ・食事時間を“数字化”して早めに動く
家でまずやる:4つの指標(週1で十分)
栄養の判断は難しく感じますが、家庭での運用はこれだけで十分に戦えます。
- 体重:週1回、同じ条件(起床後・排尿後など)で測る
- 食事時間:1食にかかる時間(分)
- むせ:水分・食事でのむせ回数(ざっくりでOK)
- 摂取量:食べ切れない日が週に何回あるか
これらは嚥下評価や栄養介入の相談を早める目印になります(嚥下と栄養は密接)。 ALSの嚥下・栄養の実務整理:https://www.mndaustralia.org.au/mnd-connect/for-health-professionals-service-providers/managing-symptoms/swallowing-nutrition-management
「体重が落ち始めた」時の優先順位
1)食べやすさ(嚥下・形態)の調整が先
- 水分でむせる → とろみ、飲み方(姿勢・一口量)、コップ変更
- 固形で疲れる → 柔らかい形態、刻み/ペースト、食事回数の分割
- 食後に声が湿る・痰が増える → 嚥下評価を優先
早めの嚥下評価・栄養の相談は、誤嚥リスクと体重減少の両方に効きます(総説例)。 https://journals.lww.com/jcnmd/fulltext/2020/03000/evaluation_and_management_of_dysphagia_in.2.aspx
2)同じ量でも「高カロリー化」する(量を増やすより先)
- 油・乳製品・ナッツ・卵などで、少量でもカロリー密度を上げる
- 飲み込みやすい高カロリー補助(主治医・栄養士と相談)
- 「食べられない日」は、飲める形で補う(ゼリー・スープ等)
高カロリー介入は「安全性・忍容性」について試験があり、より大規模研究の必要性が示されています(例:経腸栄養での高カロリー介入)。 https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4176708/ https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31849093/
3)水分は「むせない形」で確保する
- 水分が足りないと痰が粘りやすく、食事もさらにしんどくなる
- むせるなら、とろみや温度、飲み方を変える(無理して水を飲まない)
胃ろう(PEG)を“早めに話題にする”理由
胃ろう(PEG)は「末期の処置」ではなく、体重減少や嚥下の問題が進む前に、選択肢として準備しておくことが重要とされています。 神経疾患の臨床栄養ガイドライン(ESPEN)でもALSを含む神経疾患の栄養管理が扱われ、嚥下・低栄養の重要性が強調されています。 https://www.espen.org/files/ESPEN-Guidelines/ESPEN-guideline_clinical_nutrition_in_neurology.pdf
よく使われる目安(考え方)
- 体重減少:ベースから10%を超える減少が目安として言及されることがある
- 嚥下:進んだ嚥下障害(例:ALSFRS-R嚥下サブスコア低下)
- 呼吸:呼吸機能が大きく落ちる前に検討するという考え方(手技リスクと関連)
10%体重減少や嚥下の進行を“推奨タイミング”として扱った研究報告の例: https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10965990/
また、栄養介入としてPEGを早めに検討する重要性や、呼吸機能(FVC)の経時評価の重要性を示す古典的報告もあります。 https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0022510X99002300
PEGの安全性・呼吸が低い場合の考え方(知っておくと焦らない)
「呼吸が落ちたらPEGはできない」と単純には言い切れず、非侵襲的換気(NIV)などのサポート下での手技により、合併症リスクを下げる工夫が報告されています。 例:NIV下でのPEGの報告、またNIVがPEG手技の呼吸合併症を減らし得るという報告。 https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9891146/ https://www.neurology.org/doi/10.1212/WNL.57.7.1351
つまり実務としては、「今すぐ入れる/入れない」よりも、 早めに主治医チームと話題にして、呼吸・嚥下・体重の状況に合わせて計画を作るのが安全です。
家庭チェック表(コピペ用)
週1:栄養・嚥下チェック
- 体重:____ kg(前回比:____ kg)
- 食事時間:____ 分/食(以前より+____ 分)
- むせ(水分):増えた/変わらない/減った
- むせ(食事):増えた/変わらない/減った
- 食べ切れない日:週 ____ 回
- 食形態:普通/刻み/ペースト/とろみ/その他(____)
早めに相談したいサイン
- 体重が減り続ける(数週単位で下げ止まらない)
- むせが増える/食後に湿った声が続く
- 食事時間が伸び続ける(疲れて食べ切れない)
- 水分が取りにくい、脱水っぽい
- 痰が増える/咳が弱くて出しにくい(呼吸も要確認)
主治医・栄養士に伝えるテンプレ(短くて十分)
- 困りごと:体重/食事/むせ(どれが中心か)____
- いつから:____
- 数字:体重____kg(____週間で____kg減)、食事時間____分、むせ____回/日
- 希望:食形態の調整/栄養補助/PEGの話題を早めにしたい 等
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免責事項
- 本ページは情報整理であり、診断・治療の代替ではありません。
- 手技(PEG等)の適応やタイミングは主治医の判断を最優先してください。
- 本ページは特定の治療効果を保証するものではありません。
参考
- ALSの代謝・体重変化(ハイパーメタボリズム等の議論):https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6166607/
- 神経疾患の臨床栄養ガイドライン(ALSを含む):https://www.espen.org/files/ESPEN-Guidelines/ESPEN-guideline_clinical_nutrition_in_neurology.pdf
- PEG推奨タイミング(体重減少10%や嚥下の進行を用いた例):https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10965990/
- NIV下でのPEG(呼吸が低い場合の工夫):https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9891146/
- NIVがPEG手技の呼吸合併症を減らし得る報告:https://www.neurology.org/doi/10.1212/WNL.57.7.1351
- 高カロリー介入(安全性・忍容性の試験):https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4176708/
- 高カロリー介入(大規模試験での全体結論とサブ解析):https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31849093/
- 嚥下評価と管理(総説):https://journals.lww.com/jcnmd/fulltext/2020/03000/evaluation_and_management_of_dysphagia_in.2.aspx
