ALSで人工呼吸器や吸引器を使う家庭の災害対策
ALSで人工呼吸器や吸引器を使いながら在宅生活を続けている場合、災害時に最も大きな問題になりやすいのは、電源、吸引、移動、連絡、そして支援者がすぐ来られないことです。 平時は家族・訪問看護・機器業者・介護サービスがつながっていても、停電や通信障害、道路寸断が重なると、いつもの生活が急に不安定になります。
災害対策は、非常食や水を置くだけでは足りません。 人工呼吸器のバッテリー時間、吸引器の電源、手動換気、予備回路、気管カニューレ情報、医療情報カード、避難先、個別避難計画、電力会社・消防・自治体との連携まで、具体的に決めておく必要があります。
結論
- ALSで人工呼吸器や吸引器を使う家庭の災害対策は、電源、吸引、手動換気、避難先、連絡先、医療情報の整理が中心です。
- 「バッテリーがある」だけでは不十分です。何時間使えるか、どの機器を優先するか、再充電をどうするか、停電何時間で次の行動に移るかを決めます。
- 吸引器は呼吸器と同じくらい重要です。痰が多い人では、停電時に吸引できないことが命に関わります。
- アンビューバッグなどの緊急用品は、置いてあるだけではなく、誰が使えるか、どこにあるか、どの合図で使うかを確認します。
- 避難先は「避難所ならどこでもよい」とは限りません。電源、スペース、吸引、人工呼吸器、車椅子、介助者の滞在、感染対策を確認します。
- 災害時はスマートフォンだけに頼れないため、機器設定、連絡先、薬、吸引情報、意思疎通方法を紙で持てるようにします。
- 家族だけで抱え込まず、主治医、訪問看護、機器業者、自治体、消防、電力会社、近隣支援者と平時からつながっておくことが大切です。
このページで整理すること
このページは、ALSで人工呼吸器や吸引器を使う家庭が、停電や災害時に何を準備するかを整理するページです。 日常の呼吸管理、嚥下、レスパイト、救急時の引き継ぎとは役割を分けています。
| テーマ | 主に見ること | このページとの違い |
|---|---|---|
| 災害対策 | 停電、バッテリー、吸引、手動換気、避難、連絡、持ち出し物。 | このページです。災害時の備えに絞って整理します。 |
| ALSの呼吸管理 | NPPV、気管切開、排痰、咳の弱さ、睡眠中の低換気。 | 日常の呼吸状態と医療管理を確認します。 |
| ALSの嚥下・食事 | むせ、食事形態、姿勢、体重減少、誤嚥リスク。 | 災害時の備蓄ではなく、食事の安全を中心に見ます。 |
| レスパイト・短期入所 | 介護者の休息、緊急時の預け先、医療的ケア対応施設。 | 災害時の避難先候補にも関係しますが、主目的は介護継続の備えです。 |
| 救急引き継ぎ | 救急搬送時に医療者へ伝える診断名、呼吸器設定、薬、意思疎通。 | 災害だけでなく、急変時の情報共有に使います。 |
災害対策は「物をそろえること」だけではありません。 誰が、どの順番で、どの機器に電源をつなぎ、どこへ連絡し、いつ避難へ切り替えるかを決めておくことが大切です。
災害時に何が問題になりやすいか
人工呼吸器や吸引器を使うALSの在宅生活では、災害時に複数の問題が同時に起こります。 停電だけでなく、断水、通信障害、道路寸断、燃料不足、支援者の到着遅れ、避難先の電源不足が重なることがあります。
人工呼吸器の電源、吸引器の電源、痰の吸引、夜間の照明、アラーム対応、手動換気、連絡先の確認。
バッテリー再充電、消耗品不足、薬・栄養剤不足、体位変換、褥瘡、トイレ、介護者の疲労、避難先の確保。
| 災害時の問題 | 起こりやすい困りごと | 平時に決めること |
|---|---|---|
| 停電 | 人工呼吸器、吸引器、電動ベッド、エアマット、照明、通信機器が使いにくくなる。 | バッテリー時間、優先順位、再充電方法、停電何時間で次の行動へ移るか。 |
| 吸引困難 | 痰が引けず、呼吸苦、SpO2低下、痰詰まりのリスクが上がる。 | 充電式・足踏み式・手動式の予備吸引器、吸引物品、吸引手順。 |
| 通信障害 | 主治医、訪問看護、機器業者、自治体、家族へ連絡できない。 | 紙の連絡先、複数の連絡手段、近隣支援者、集合場所。 |
| 移動困難 | 車椅子、呼吸器、吸引器、バッテリー、荷物を持って避難できない。 | 避難先、車両、搬送支援者、持ち出し物の分担。 |
| 支援者の遅れ | 訪問看護や介護者が来られず、家族だけで対応する時間が長くなる。 | 家族内の手順、近隣支援者、最低限のケア手順、緊急時の合図。 |
| 避難先の不一致 | 一般避難所で電源、吸引、人工呼吸器、車椅子スペースが確保できない。 | 福祉避難所、医療機関、親族宅、電源のある避難先候補。 |
災害時は「ひとつの問題」ではなく、「停電し、連絡が取れず、支援者が来られず、移動も難しい」状態になりやすいです。 一つずつではなく、同時に起きる前提で備えてください。
まず3つに分ける
すべてを一度に準備しようとすると、何から手をつければよいか分からなくなります。 まずは「止めてはいけない機器」「持ち出す情報と物品」「人に頼る仕組み」の3つに分けます。
人工呼吸器、吸引器、酸素、加温加湿器、咳補助機器、通信機器、電動ベッド、エアマットなど。
呼吸器設定、カニューレ情報、薬、吸引物品、予備回路、バッテリー、連絡先、意思伝達ツール。
家族、訪問看護、機器業者、主治医、自治体、消防、電力会社、近隣支援者、避難先候補。
災害時に一番危険なのは、必要な情報が家族の頭の中にだけある状態です。 紙にして、見える場所に置き、家族以外でも読めるようにしておきます。
最優先になる電源対策
在宅人工呼吸器と吸引器を使う家庭では、電源の確保が最優先です。 ただし、電源対策は「バッテリーを買う」だけではありません。 どの機器に何時間使えるか、どの順番で使うか、充電できない時にどうするかを決めます。
平時に確認したいこと
- 人工呼吸器の内部バッテリーがあるか。
- 内部バッテリーで何時間使えるか。
- 外部バッテリーの個数と、それぞれの持続時間。
- 外部バッテリーの置き場所、充電の頻度、交換時期。
- 吸引器の電源方式と、停電時に使える時間。
- 加温加湿器、酸素濃縮器、咳補助機器を停電時にどう扱うか。
- 蓄電池、車載電源、発電機を使う場合の接続方法。
- 停電時に誰がどの機器へ電源をつなぐか。
- 停電何時間で主治医、訪問看護、機器業者、自治体へ連絡するか。
- 停電何時間で避難や入院相談へ切り替えるか。
| 機器・用品 | 確認すること | メモ欄に残すこと |
|---|---|---|
| 人工呼吸器 | 内部バッテリー、外部バッテリー、アラーム、設定、回路、加湿。 | 機種名、設定、内部バッテリー時間、外部バッテリー時間。 |
| 吸引器 | 充電式か、AC電源のみか、予備吸引器があるか。 | 充電時間、使用可能時間、予備吸引器の場所。 |
| 酸素 | 酸素濃縮器は停電時に止まるため、ボンベの有無を確認。 | 流量、ボンベ本数、残量、業者連絡先。 |
| 加温加湿器 | 停電時に使用継続できるか、人工鼻へ切り替えるか。 | 切り替え手順、人工鼻の置き場所。 |
| 咳補助機器 | 停電時に使えるか、使えない場合の排痰方法。 | 使用時間、優先順位、代替手段。 |
| 通信機器 | スマートフォン、意思伝達装置、タブレット、充電器。 | モバイルバッテリー、充電ケーブル、予備電源。 |
| 照明 | 夜間に吸引・回路確認・カニューレ確認ができるか。 | 非常灯、ヘッドライト、懐中電灯の場所。 |
発電機を使う場合は、屋内や換気の悪い場所では使わないでください。 一酸化炭素中毒の危険があります。設置場所、燃料、騒音、雨風対策、延長コード、接続する機器を事前に確認してください。
人工呼吸器で確認したいこと
人工呼吸器は、災害時に最も優先して守る機器です。 NPPVか気管切開人工呼吸かによって必要物品は変わりますが、機器設定、回路、加湿、カニューレ、アラーム、電源の情報を紙で残しておくことが大切です。
| 確認項目 | 書いておく内容 | 確認する相手 |
|---|---|---|
| 人工呼吸器の機種名 | メーカー、機種名、シリアル番号、業者連絡先。 | 機器業者、訪問看護。 |
| 呼吸器設定 | モード、圧、換気量、呼吸回数、酸素流量、アラーム設定など。 | 主治医、呼吸療法担当、機器業者。 |
| 回路 | 予備回路、マスク、カニューレ接続、人工鼻、加温加湿器。 | 機器業者、訪問看護。 |
| 気管カニューレ | 製品名、サイズ、カフ量、交換日、予備カニューレの場所。 | 主治医、訪問看護。 |
| アラーム対応 | よく鳴るアラーム、原因、家族ができる対応、すぐ連絡する条件。 | 機器業者、訪問看護。 |
| 電源切り替え | 内部バッテリーへ切り替わった時刻、外部バッテリー接続、残量確認。 | 機器業者、家族、訪問看護。 |
人工呼吸器の設定は、家族が暗記するものではありません。 ただし、災害時に医療者や支援者へ見せられるよう、設定の控えを紙で持ち出せる状態にしておくことが重要です。
吸引器・排痰で確認したいこと
ALSで気管切開をしている人、痰が多い人、嚥下が不安定な人では、吸引器は人工呼吸器と同じくらい重要です。 停電時に吸引ができないと、痰詰まりや呼吸苦につながることがあります。
| 項目 | 確認すること | 備え方 |
|---|---|---|
| 吸引器本体 | AC電源のみか、充電式か、バッテリー時間は何分か。 | 停電時の使用可能時間を紙に書き、本体にも貼っておきます。 |
| 予備吸引器 | 充電式、足踏み式、手動式などの予備があるか。 | 普段から時々使い、家族が操作に慣れておきます。 |
| 吸引カテーテル | 1日の使用回数、必要本数、予備日数。 | 最低限の持ち出し分と、自宅備蓄分を分けます。 |
| 清潔物品 | 手袋、アルコール綿、ガーゼ、滅菌水、消毒用品。 | 持ち出し袋と自宅備蓄に分けて準備します。 |
| 排痰補助 | 咳補助機器、体位、加湿、人工鼻、ネブライザーの必要性。 | 停電時に使えない機器の代わりを訪問看護と確認します。 |
| 痰が増えた時 | 発熱、感染、脱水、むせ、痰の色や粘り。 | いつ主治医・訪問看護へ連絡するか決めます。 |
吸引器は「停電してから使い方を確認する」では遅れます。 予備吸引器がある場合も、箱に入れたままではなく、使い方、置き場所、必要物品を家族と確認してください。
手動換気・緊急時の呼吸補助
人工呼吸器が止まる、回路が外れる、バッテリーが切れる、痰詰まりが起きるなどの場面では、手動換気が必要になることがあります。 アンビューバッグなどの緊急用品は、置いてあるだけではなく、誰が使えるかが重要です。
| 確認項目 | 確認すること | 注意点 |
|---|---|---|
| アンビューバッグ | 置き場所、サイズ、接続部、酸素接続の有無。 | 家族全員が場所を知っている必要があります。 |
| 使用できる人 | 家族、訪問看護、介護者のうち、誰が使えるか。 | 一人だけでなく複数人が手順を確認します。 |
| 使う合図 | 呼吸器停止、アラーム、SpO2低下、顔色、本人の合図。 | 本人が話せない場合の合図を決めます。 |
| 緊急連絡 | 救急、主治医、訪問看護、機器業者の順番。 | 紙の連絡先を見える場所に置きます。 |
| 避難時 | 搬送中に誰が呼吸器、吸引、アンビューバッグを見るか。 | 移動中の役割分担を決めておきます。 |
手動換気の方法は、本文だけで覚えるものではありません。 主治医、訪問看護、呼吸器業者から本人に合わせた方法を確認し、家族が練習しておくことが大切です。
自宅待機と避難の判断
災害時は、必ず避難所へ行けば安全とは限りません。 人工呼吸器や吸引器を使う人では、自宅の安全が保たれ、電源・物品・支援が確保できるなら、自宅で過ごす方が安全な場面もあります。 一方、浸水、火災、建物損壊、長時間停電、支援者不在、吸引不能がある場合は、早めに避難や入院相談が必要です。
| 判断場面 | 自宅待機を考えやすい条件 | 避難・入院相談を考える条件 |
|---|---|---|
| 建物 | 倒壊、浸水、火災、土砂災害の危険が低い。 | 浸水、土砂災害、建物損壊、火災、エレベーター停止で孤立。 |
| 電源 | 呼吸器・吸引器に必要な電源を一定時間確保できる。 | バッテリー残量が少ない、再充電できない、停電が長引く見込み。 |
| 吸引 | 吸引器、予備吸引器、カテーテル、家族の手順がそろっている。 | 吸引器が使えない、痰が多い、痰詰まりが心配、吸引できる人がいない。 |
| 介助者 | 家族や支援者がいて、体位変換・吸引・機器確認ができる。 | 介助者が不在、家族が疲弊、夜間対応ができない。 |
| 医療連絡 | 主治医、訪問看護、機器業者と連絡が取れる。 | 連絡が取れず、機器トラブルや体調悪化に対応できない。 |
| 体調 | 普段と大きく変わらず、SpO2や呼吸苦が安定している。 | 呼吸苦、SpO2低下、発熱、痰増加、むせ、意識変化、強い不安。 |
自宅待機か避難かは、災害が起きてから初めて考えると遅れやすくなります。 「停電が何時間続いたら連絡」「バッテリー残量が何%になったら移動相談」など、目安を先に決めてください。
個別避難計画の考え方
人工呼吸器を使用するALSの方は、一般的な避難行動だけでは対応しにくいことがあります。 そのため、自治体の避難行動要支援者名簿や個別避難計画について相談し、本人に合わせた避難方法を決めておくことが重要です。
個別避難計画で決めたいこと
- 災害の種類ごとの行動。地震、台風、大雨、浸水、停電を分ける。
- 自宅で待機できる条件。
- 避難を始める条件。
- 避難先候補。福祉避難所、医療機関、親族宅、電源のある施設など。
- 搬送方法。車椅子、ストレッチャー、福祉車両、自家用車、救急搬送相談。
- 誰が本人、呼吸器、吸引器、バッテリー、荷物を担当するか。
- 避難先で吸引、電源、体位変換、トイレ、栄養、意思疎通をどうするか。
- 夜間・家族不在時・介助者が来られない時の動き方。
| 相談先 | 相談したい内容 |
|---|---|
| 自治体 | 避難行動要支援者名簿、個別避難計画、福祉避難所、非常用電源支援。 |
| 保健所・難病相談 | 難病患者の災害時支援、安否確認、地域の連携体制。 |
| 消防 | 人工呼吸器使用、搬送時の注意、住所登録、救急時の情報共有。 |
| 主治医 | 避難より入院相談が必要になる条件、呼吸器設定、緊急時の対応。 |
| 訪問看護 | 停電時、吸引、手動換気、体位変換、物品管理、家族の練習。 |
| 機器業者 | バッテリー、呼吸器トラブル、交換機、アラーム対応、電源接続。 |
個別避難計画は、一度作って終わりではありません。 呼吸器の変更、吸引頻度、体重、車椅子、住環境、介護者の状況が変わったら見直してください。
持ち出しと備蓄
災害用品は、「すぐ持ち出すもの」と「自宅で数日過ごすための備蓄」に分けておくと準備しやすくなります。 すべてを一つの袋に入れると重くなり、避難時に持ち出せないことがあります。
すぐ持ち出すもの
| 分類 | 入れておきたいもの |
|---|---|
| 医療情報 | 診断名、主治医、呼吸器設定、気管カニューレ情報、薬、アレルギー、意思疎通方法。 |
| 呼吸器関連 | 外部バッテリー、充電器、予備回路、マスク、人工鼻、必要な接続部品。 |
| 吸引関連 | 吸引カテーテル、手袋、ガーゼ、アルコール綿、滅菌水、予備吸引器。 |
| 緊急用品 | アンビューバッグ、酸素関連物品、予備カニューレ、はさみ、テープ。 |
| 連絡 | 連絡先一覧、スマートフォン、充電器、モバイルバッテリー、ラジオ。 |
| 意思伝達 | 文字盤、透明文字盤、筆談具、視線入力機器の充電用品、Yes/Noカード。 |
| 薬・栄養 | 数日分の薬、お薬手帳、栄養剤、注入用品、シリンジ、服薬方法のメモ。 |
自宅に備蓄するもの
- 水、食料、栄養剤、薬、衛生用品。
- 吸引カテーテル、手袋、ガーゼ、消毒用品、人工鼻、予備回路。
- 外部バッテリー、蓄電池、充電器、延長コード、電源タップ。
- 懐中電灯、ヘッドライト、停電時自動点灯ライト、ラジオ。
- 紙おむつ、清拭用品、体位変換用品、褥瘡予防用品。
- 暖房・冷房が止まった時の体温調整用品。
- ゴミ袋、ビニール袋、ウェットティッシュ、簡易トイレ。
- 家族の食料・水・薬・充電用品。
本人の医療用品だけでなく、介助者の水分、食事、睡眠、トイレも大切です。 家族が倒れると在宅療養全体が止まるため、介助者の備えも一緒に考えてください。
連絡体制と紙の情報
災害時は、スマートフォンが使えない、充電が切れる、通信が混み合う、家族が動揺して説明できないことがあります。 そのため、医療情報と連絡先は紙で持つことが大切です。
一覧化しておきたい連絡先
- 主治医・病院。
- 訪問看護ステーション。
- 人工呼吸器メーカー・取扱業者。
- 吸引器・酸素・栄養剤・医療材料の業者。
- 薬局。
- 自治体窓口、保健所、難病相談窓口。
- 消防、救急相談先。
- 電力会社。
- ケアマネジャー、相談支援専門員。
- 近隣支援者、親族、車で来られる人。
紙で持っておきたい情報
| 情報 | 書いておく内容 |
|---|---|
| 本人情報 | 氏名、生年月日、住所、診断名、緊急連絡先。 |
| 呼吸 | NPPV、気管切開、人工呼吸器機種、設定、酸素、吸引、普段のSpO2。 |
| 気管カニューレ | 製品名、サイズ、カフ量、交換日、予備カニューレ。 |
| 吸引 | 吸引頻度、痰の状態、吸引カテーテルサイズ、必要物品。 |
| 薬 | 薬剤名、用量、回数、投与方法、アレルギー、禁忌。 |
| 栄養 | 経口、胃ろう、経管栄養、栄養剤名、量、速度、注入回数。 |
| 移動・姿勢 | 車椅子、リフト、二人介助、禁忌姿勢、褥瘡リスク。 |
| 意思疎通 | 会話、筆談、文字盤、視線入力、Yes/Noの合図、苦しい時の合図。 |
紙の情報は、玄関、ベッド周囲、薬の近く、持ち出し袋、訪問看護ファイルなど、複数の場所に置くと使いやすくなります。
自宅の環境整備
災害時は、医療機器そのものだけでなく、機器が倒れる、ベッドと呼吸器が離れる、落下物が当たる、夜間に機器が見えないといった問題も起こります。 自宅で過ごす可能性がある場合は、部屋の安全も見直します。
| 確認する場所 | 見直したいこと | 理由 |
|---|---|---|
| ベッド周囲 | 家具の転倒防止、落下物、通路、呼吸器台の位置。 | 地震時に本人や回路へ物が当たるのを防ぐため。 |
| 人工呼吸器 | 転倒防止、ベッドとの距離、回路が引っ張られない配置。 | 揺れで回路が外れたり、本体が倒れたりするのを防ぐため。 |
| 吸引器 | 手が届く場所、非常時の置き場所、予備吸引器。 | 痰が増えた時にすぐ使うため。 |
| 照明 | 停電時自動点灯ライト、ヘッドライト、蛍光テープ。 | 夜間に吸引、回路確認、カニューレ確認をするため。 |
| 電源周り | 接続する機器、延長コード、電源タップ、過負荷の確認。 | 停電復旧時や蓄電池使用時の混乱を避けるため。 |
| 電動ベッド | 停電時に動かない場合の姿勢、手動操作、楽な角度。 | 停電時でも呼吸しやすく、介助しやすい姿勢を保つため。 |
| エアマット | 停電時に空気が抜けるか、代替の除圧方法。 | 褥瘡や痛みを防ぐため。 |
災害対策は、特別な道具だけではありません。 ベッド周囲の片づけ、機器の固定、通路の確保、照明の配置だけでも、緊急時の動きやすさが変わります。
台風・大雨の前にやること
地震は予測できませんが、台風や大雨はある程度前から備えられることがあります。 天気予報や自治体の情報で危険が近づいている時は、前日ではなく早めに準備を始めます。
| タイミング | やること |
|---|---|
| 3日前〜2日前 | 薬、栄養剤、吸引物品、水、食料、衛生用品の残量を確認。必要なら早めに補充します。 |
| 2日前 | 外部バッテリー、蓄電池、スマートフォン、意思伝達機器を充電します。 |
| 前日 | 避難先候補、家族の役割、連絡先、車両、持ち出し袋を確認します。 |
| 当日朝 | 訪問看護、機器業者、自治体情報、電力会社情報を確認します。 |
| 停電前の可能性が高い時 | 呼吸器・吸引器の電源、照明、手動換気用品、予備吸引器を手元に集めます。 |
| 避難を考える時 | 暗くなる前、浸水が始まる前、道路が使えなくなる前に判断します。 |
人工呼吸器や吸引器を使う人では、「避難指示が出てから考える」では遅れることがあります。 移動に時間がかかるため、避難の候補とタイミングを早めに決めてください。
家族・支援者と練習したいこと
災害時の備えは、物を置くだけではなく、実際に動けるかが大切です。 普段から短時間でよいので、家族や支援者と手順を確認してください。
| 練習すること | 確認する内容 | 一緒に確認したい人 |
|---|---|---|
| 停電時の電源切り替え | 呼吸器、吸引器、蓄電池、外部バッテリーの接続。 | 家族、訪問看護、機器業者。 |
| 吸引 | 吸引器本体、予備吸引器、カテーテル、手袋、清潔操作。 | 家族、訪問看護。 |
| 手動換気 | アンビューバッグの置き場所、接続、使う合図。 | 家族、訪問看護、主治医。 |
| 持ち出し | 誰が本人、呼吸器、吸引器、バッテリー、薬、書類を担当するか。 | 家族、近隣支援者、介護職。 |
| 避難先への連絡 | 電話する順番、伝える内容、受け入れ可否の確認。 | 家族、自治体、ケアマネジャー。 |
| 意思疎通 | 本人が苦しい、吸引してほしい、休みたい、痛いと伝える方法。 | 家族、訪問看護、介護職。 |
練習は完璧でなくても構いません。 一度やってみると、重すぎて持てない、コードが届かない、誰も設定を読めない、夜だと見えない、といった問題が見つかります。
コピーして使える災害時メモ
災害時は、本人や家族が落ち着いて説明できないことがあります。 以下を印刷して、玄関、ベッド周囲、薬の近く、持ち出し袋、訪問看護ファイルに入れておくと共有しやすくなります。
【本人情報】 氏名: 生年月日: 住所: 診断名:ALS 主治医: 病院名: 診療科: 病院電話: 家族連絡先1: 家族連絡先2: 【呼吸】 人工呼吸器:なし / NPPV / 気管切開人工呼吸 機種名: メーカー・業者: 業者電話: 使用時間:夜間のみ / 日中も使用 / 24時間 呼吸器設定: モード: 圧・換気量: 呼吸回数: 酸素:なし / あり(流量: L/分) 普段のSpO2: アラーム時の対応: 内部バッテリー時間: 外部バッテリー個数: 外部バッテリー1つあたりの時間: 充電器の場所: 【気管切開・カニューレ】 気管切開:なし / あり カニューレ製品名: サイズ: カフ量: 最終交換日: 予備カニューレの場所: 人工鼻の場所: 加温加湿器:なし / あり 停電時の加湿対応: 【吸引】 吸引:なし / あり 吸引頻度: 吸引カテーテルサイズ: 吸引器機種: 吸引器バッテリー時間: 予備吸引器:なし / あり(種類:充電式 / 足踏み式 / 手動式) 吸引物品の場所: 痰が増えた時の連絡先: 【手動換気】 アンビューバッグ:なし / あり 置き場所: 使える人: 使う合図: 緊急時に連絡する順番: 1. 2. 3. 【薬・栄養】 薬: お薬手帳の場所: アレルギー: 胃ろう・経管栄養:なし / あり 栄養剤名: 1回量: 注入回数: 注入用品の場所: 【意思疎通】 会話:可 / 不可 筆談:可 / 不可 文字盤:あり / なし 視線入力:あり / なし Yesの合図: Noの合図: 苦しい時の合図: 吸引してほしい時の合図: 【移動・介助】 移動:歩行 / 車椅子 / ベッド中心 移乗:一人介助 / 二人介助 / リフト 車椅子: リフト: 避けたい姿勢: 褥瘡リスク部位: 【災害時の行動】 自宅待機できる条件: 避難を始める条件: 避難先候補1: 避難先候補2: 搬送方法: 持ち出す機器: 持ち出す物品: 停電何時間で連絡: バッテリー残量何%で移動相談: 【連絡先】 訪問看護: ケアマネジャー: 自治体窓口: 保健所: 消防: 電力会社: 人工呼吸器業者: 吸引器業者: 酸素業者: 薬局: 近隣支援者: 親族:
【停電したら最初に見ること】 □ 人工呼吸器がバッテリー運転に切り替わった時刻を書いた □ バッテリー残量を確認した □ 吸引器が使えるか確認した □ 予備吸引器を手元に置いた □ アンビューバッグを手元に置いた □ 非常灯・ヘッドライトをつけた □ スマートフォン・意思伝達機器の充電を確認した □ 主治医・訪問看護・機器業者の連絡先を出した □ 家族内で役割を分けた □ 停電が長引く時の次の行動を確認した
よくある質問
内部バッテリーがあれば災害対策は十分ですか?
十分とは限りません。内部バッテリーの持続時間には限りがあります。外部バッテリー、再充電手段、吸引器の電源、手動換気、避難先の電源確保まで考える必要があります。
吸引器はどのくらい重要ですか?
痰が多い人、気管切開をしている人、むせやすい人では非常に重要です。人工呼吸器が動いていても、痰が引けないと呼吸が苦しくなることがあります。予備吸引器と吸引物品を準備し、家族が使い方に慣れておくことが大切です。
一般の避難所に行けばよいですか?
一律ではありません。人工呼吸器や吸引器を使う場合、電源、スペース、吸引、車椅子、介助者の滞在、感染対策が必要です。一般避難所で対応できないこともあるため、福祉避難所、医療機関、親族宅なども含めて候補を確認してください。
家族だけで準備すれば大丈夫ですか?
家族だけで完結しにくいことが多いです。主治医、訪問看護、人工呼吸器業者、吸引器業者、自治体、消防、電力会社、近隣支援者と平時からつながっておく方が安全です。
発電機を用意した方がよいですか?
地域や住宅環境、機器の使用状況によって変わります。発電機を使う場合は、屋内や換気の悪い場所では絶対に使わず、一酸化炭素中毒に注意します。必要電力、燃料、設置場所、雨風対策、接続する機器を機器業者や支援者と確認してください。
電力会社には連絡しておいた方がよいですか?
在宅で人工呼吸器など電源が必要な医療機器を使っていることを、地域の制度や電力会社の案内に沿って確認しておくとよいです。ただし、登録していても停電を完全に避けられるわけではありません。自宅側の電源対策も必要です。
持ち出し袋には何を入れるべきですか?
医療情報、呼吸器設定、気管カニューレ情報、連絡先、薬、お薬手帳、外部バッテリー、充電器、吸引物品、予備回路、アンビューバッグ、意思伝達ツールを優先します。すべてを一つに入れると重くなるため、持ち出し用と自宅備蓄に分けてください。
災害時に自宅にいるか避難するかはどう決めますか?
自宅の安全、停電時間、バッテリー残量、吸引できるか、介助者がいるか、避難先の電源、道路状況で変わります。災害が起きてから決めるのではなく、停電何時間、バッテリー残量何%、浸水の可能性など、判断の目安を先に決めてください。
紙の情報は本当に必要ですか?
必要です。災害時はスマートフォンが使えない、通信できない、家族が説明できないことがあります。呼吸器設定、カニューレ情報、吸引、薬、連絡先、意思疎通方法は紙で持ち出せるようにしてください。
参考文献
-
難病情報センター. 災害対策チェックリスト.
https://www.nanbyou.or.jp/wp-content/uploads/upload_files/saigai.checklist.pdf -
内閣府. 医療的ケアが必要な人と家族のための災害時対応ガイドブック.
https://www.bousai.go.jp/kaigirep/chuobou/jikkoukaigi/18/pdf/shiryo2-2.pdf -
埼玉県難病医療連絡協議会・埼玉県. 在宅難病人工呼吸器等使用患者さん(ご家族)のための平時から備える災害対策の手引き. 令和6年12月2日更新.
https://higashisaitama.hosp.go.jp/pdf/nanbyo/manual_a2.pdf -
厚生労働省. 第8回 在宅医療及び医療・介護連携に関するワーキンググループ. ブラックアウト時の在宅人工呼吸器患者への対応について等.
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_03973.html -
厚生労働省. ブラックアウト時の在宅人工呼吸器患者への対応について.
https://www.mhlw.go.jp/content/10802000/000489035.pdf -
厚生労働省. 東京電力株式会社による輪番停電に係る医療機関の対応について.
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000014wz7-img/2r98520000014x0o.pdf -
宮城県. 災害時対応ハンドブック.
https://www.pref.miyagi.jp/documents/23912/saigaihandbook.pdf -
国立成育医療研究センター. 医療的ケア児の災害対策マニュアル.
https://www.ncchd.go.jp/hospital/about/section/cooperation/shinsai_manual.pdf
在宅人工呼吸器・吸引器を使う場合、停電時の電源、吸引継続、手動換気、医療情報の紙での共有、個別避難計画、支援者との連携が重要です。地域によって支援制度や避難先は異なるため、主治医、訪問看護、自治体、機器業者と確認してください。
まとめ
ALSで人工呼吸器や吸引器を使う家庭の災害対策では、電源、吸引、手動換気、避難、連絡、紙の医療情報を平時から準備しておくことが大切です。 特に停電時は、人工呼吸器だけでなく、吸引器、照明、通信機器、意思伝達機器も必要になります。
災害時に家族だけで判断し切るのは難しいため、個別避難計画、主治医・訪問看護・機器業者・自治体・消防・電力会社との連携を早めに進めてください。 避難するか、自宅で待機するかも、災害が起きてからではなく、判断の目安を先に決めておくことが重要です。
準備の目的は、不安を増やすことではありません。 何が止まると危険か、誰に連絡するか、何を持つかを見える形にしておくことで、災害時の混乱を減らし、本人と家族の安全を守りやすくなります。
免責事項
- 本ページは一般的な情報提供を目的としたもので、個別の医療判断、避難指示、機器操作指示を行うものではありません。
- 実際の備えは、人工呼吸器の種類、NPPVか気管切開か、吸引頻度、バッテリー時間、住宅環境、地域の災害リスク、支援体制によって異なります。
- 人工呼吸器、吸引器、酸素、加温加湿器、咳補助機器、発電機、蓄電池の使用方法は、主治医、訪問看護、機器業者の説明に従ってください。
- 呼吸苦、人工呼吸器停止、吸引不能、痰詰まり、SpO2低下、意識変化、強いむせがある場合は、通常の相談より早い対応が必要になることがあります。
- 発電機を屋内や換気の悪い場所で使用しないでください。一酸化炭素中毒の危険があります。
- 災害時の避難先や支援制度は自治体によって異なります。必ず地域の窓口へ確認してください。

