肢帯型筋ジストロフィー(LGMD):分類・症状・リハビリの詳解

肢帯型(LGMD)とは

肢帯型筋ジストロフィー(Limb-Girdle Muscular Dystrophy:LGMD)は、特定のひとつの病気を指す言葉ではありません。
「腰まわり(骨盤帯)」や「肩まわり(肩甲帯)」の筋肉を中心に、筋力が低下していく「症状のパターン(臨床病型)」に対する総称です。

現在、原因となる遺伝子は30種類以上確認されていますが、タイプによって進行スピードや合併症のリスクは異なります。

出典:難病情報センター(指定難病113)

1. 症状の中心:「肢帯」とはどこか?

手先や足先ではなく、体幹に近い「太い筋肉」から影響を受けるのが特徴です。

① 腰帯(ようたい):骨盤まわり

お尻(大殿筋)や太もも(大腿四頭筋)の筋肉です。
ここが弱くなると、「椅子から立ち上がれない」「階段が登れない」「歩くときにお尻を振る」といった症状が出ます。
多くのタイプで、上半身よりも先にこちら(下半身)から症状が始まります。

② 肩甲帯(けんこうたい):肩まわり

肩甲骨周りの筋肉です。
ここが弱くなると、「腕が上がらない」「洗濯物が干せない」「重いものを持ち上げられない」といった症状が出ます。
FSHD(顔面肩甲上腕型)と似ていますが、LGMDでは左右差が少なく、顔面の症状が出ないのが一般的です。

2. 複雑な分類と「診断がつかない」場合

LGMDは遺伝形式で大きく2つ(優性の1型/D系、劣性の2型/R系)に分けられ、さらに原因タンパク質ごとに細分化されます。
日本人の患者さんの約9割は、劣性遺伝である「2型(R系)」に含まれます。

⚠️ 遺伝子が見つからない場合(分類不能群)

遺伝子解析技術は進歩していますが、全てのLGMDの原因遺伝子が特定されているわけではありません。
GeneReviewsなどの専門的なガイドラインにおいても、マルチパネル検査を行っても「確定診断に至らない例が相当数存在する」と明記されています。

遺伝子が見つからない場合でも、筋生検(筋肉の組織検査)などで筋ジストロフィーの所見があり、かつ他の筋疾患(筋炎など)が否定されれば、臨床的に「肢帯型筋ジストロフィー」と診断され、経過観察やリハビリが行われます。

参考:GeneReviews Japan(肢帯型筋ジストロフィー概説)

3. 腰まわりの症状:歩行と立ち上がりの変化

LGMDの多くは、骨盤帯(腰回り・太もも)の筋力低下から始まります。
これらは、体を支える中心的な筋肉が弱くなることで起こる現象です。

① 動揺性歩行(アヒル歩き)
お尻の横の筋肉(中殿筋)は、片足立ちになった時に骨盤を水平に保つ役割があります。
ここが弱くなると、歩くたびに骨盤が傾いてしまうため、上半身を左右に大きく振ってバランスを取るようになります。
医学用語で「動揺性歩行(Waddling gait)」と呼ばれます。
② 登攀性起立(ガワーズ徴候)
床から立ち上がる際、お尻や太ももの力だけで体を持ち上げることが難しくなります。
そのため、手や腕を使って床を押し、自分の膝や太ももに手をついてよじ登るようにして立ち上がる動作(Gowers’ sign)が見られるようになります。
③ 階段昇降の困難
太ももの筋肉(大腿四頭筋・ハムストリングス)が弱くなるため、自分の体重を高い位置に持ち上げることが辛くなります。
手すりを強く引いて体を引き上げたり、一段ずつ両足を揃えて上る動作が見られます。
4. 肩まわりの症状:腕の挙上困難

腰まわりと並行して、あるいは少し遅れて、肩甲骨周りの筋肉も症状が現れます。
日常生活では「腕を上げる動作」に支障が出ます。

具体的な困りごと

  • 洗髪やドライヤーの時、腕を上げ続けるのが辛い。
  • 高い棚にある物が取れない。
  • 電車のつり革につかまり続けるのが難しい。

翼状肩甲について

LGMDでも、腕を上げた時に肩甲骨が浮き出る「翼状肩甲」が見られることがあります。
これは肩甲骨を背中に固定する筋肉(前鋸筋など)が弱くなっているサインです。

5. 進行スピードの大きな個人差

LGMDはサブタイプによって進行が大きく異なります。
「いつ頃から車椅子になるか」を一概に言うことはできません。

急速進行型 小児期に発症し、比較的早い段階で歩行が困難になるケース。
一部のサルコグリカン異常症(2C/R5, 2D/R3, 2E/R4など)に見られます。
緩徐進行型 成人発症、あるいは小児発症でも進行が非常にゆっくりなケース。
50代、60代でも歩行可能な場合が多くあります。
(例:1型/D系の一部や、ジスファーリン異常症の一部など)

参考:国立精神・神経医療研究センター(筋ジストロフィーの解説)

6. 日本人に多い2つのタイプ(2A型と2B型)

日本国内のLGMD患者さんのうち、約半数以上が以下の2つのタイプ(カルパイン欠損、ジスファーリン欠損)で占められています。
ご自身のタイプを知ることは、予後の予測や管理において非常に重要です。

① LGMD 2A型 / R1(カルパイン3欠損症)

日本で最も頻度が高いとされるタイプです。
10代〜20代で発症することが多く、腰や肩の筋力低下に加え、「関節拘縮(かんせつこうしゅく)」が起こりやすいのが特徴です。

  • 足首が硬くなりやすく、つま先歩きになることがある。
  • 翼状肩甲が目立ちやすい。
② LGMD 2B型 / R2(ジスファーリン欠損症)と「三好型」

「ジスファーリン」という膜修復タンパク質が欠損するタイプです。
このタイプは、症状の出方によって2つの病名に分かれますが、原因は全く同じです。

LGMD 2B型 太ももや腰から痩せてくるタイプ。
三好型
(Miyoshi Myopathy)
ふくらはぎから痩せてくるタイプ。
「つま先立ちができない」のが初期症状として特徴的。
※進行すると太ももや腰も弱くなり、LGMDと同様の状態になります。

特徴:血液検査でのCK値(クレアチンキナーゼ)が数千〜数万という非常に高い値になることが多いです。

出典:国立精神・神経医療研究センター(筋ジストロフィーの解説)

7. 診断の流れ:どうやって確定するか

「歩きにくい」などの症状で受診した場合、主に3つのステップで診断が進められます。

STEP 1:血液検査(CK値)

筋肉が壊れると、中にある酵素(CK:クレアチンキナーゼ)が血液中に漏れ出します。
正常値は数百程度ですが、LGMD(特にジスファーリン欠損)では数千〜数万に跳ね上がることがあります。

STEP 2:筋生検(きんせいけん)

太ももなどの筋肉を少しだけ採取し、顕微鏡で観察します。
「カルパイン3」や「ジスファーリン」などのタンパク質が染まるかどうか(免疫染色)を見ることで、欠損しているタンパク質を特定します。

STEP 3:遺伝子検査

血液からDNAを抽出し、原因遺伝子の変異を調べます。
これで変異が見つかれば確定診断となりますが、前述の通り、まだ見つかっていない遺伝子もあり、すべての患者さんで確定できるわけではありません。

8. 生命に関わる合併症:心臓と呼吸

LGMDは手足の筋肉だけでなく、心臓や呼吸筋も筋肉でできているため、タイプによっては内臓の機能低下が起こります。
自覚症状が出る前に、定期検査でチェックすることが命を守ります。

🫀 心合併症(心筋症・不整脈)

特定のタイプでは、歩行機能が保たれていても心臓病が進行することがあります。
特に注意が必要なタイプ: LGMD 1B型(ラミノパチー)、LGMD 2C-2F型(サルコグリカン異常症)など。

対策 年に1回の心電図・心エコー検査は必須です。ペースメーカーが必要になることもあります。

🫁 呼吸機能低下

横隔膜などの呼吸筋が弱まると、睡眠中に呼吸が浅くなる「換気不全」が起こります。
「朝起きた時に頭が痛い」「日中眠い」といった症状は要注意です。
対策 定期的な肺活量検査(%VC)を行い、必要であれば夜間のみ呼吸器(NPPV)を使用します。

出典:難病情報センター(合併症について)

9. 体が硬くなる「関節拘縮(こうしゅく)」

LGMD患者さん(特に2A型など)は、筋肉が痩せるだけでなく、関節が固まって動かなくなる「拘縮」が起きやすい傾向があります。

よくある症状:尖足(せんそく)

アキレス腱が縮んでしまい、かかとが床につかなくなる状態です。
つま先立ちのような歩き方になり、バランスが悪化して転倒しやすくなります。

対策:毎日のストレッチ

拘縮は一度進むと戻すのが大変です。
お風呂上がりなどに、足首や膝、股関節をゆっくり伸ばすストレッチを習慣化することが、歩行寿命を延ばす鍵になります。

10. リハビリの原則:やりすぎは逆効果?

「筋肉が減る病気なら、筋トレをすればいい」と考えがちですが、筋ジストロフィーにおいて過度な筋トレは危険です。

⚠️ 避けるべき運動:強い負荷の筋トレ
重いバーベルを持ち上げる、坂道を駆け下りるなど、筋肉に強い負荷がかかりながら伸ばされる運動(エキセントリック収縮)は、筋肉の細胞膜を破壊し、病気の進行を早めてしまうリスクがあります。
✅ 推奨される運動:低負荷・有酸素運動
疲れが翌日に残らない程度の軽いウォーキング、水中運動、ストレッチなどが推奨されます。
「筋肉を太くする」ことよりも、「今の機能を維持する」「関節を柔らかく保つ」ことを目的に行いましょう。

参考:NCNP(リハビリテーションについて)

11. 治療法開発の現在地

現在、LGMDを根治する薬剤は承認されていませんが、世界中で研究が進んでいます。
特に「遺伝子治療」の分野で大きな期待が寄せられています。

🧬 遺伝子治療への期待

LGMDの多くは「ある特定のタンパク質が足りない」ことが原因です。
そのため、「ウイルスベクター(運び屋)を使って、正常な遺伝子を筋肉に届ける」という治療法の研究が、特定の型(LGMD 2E型/R4など)を中心に進められています。

💡 患者登録(Remudy)の重要性
治験が始まった際にいち早く情報を得るため、また研究を後押しするために、国立精神・神経医療研究センターが運営する患者登録システム「Remudy(レムディ)」への登録が推奨されています。

参考:Remudy(神経筋疾患患者登録サイト)

12. 日本で使える公的支援制度

長期的な療養生活を支えるための制度です。条件に当てはまる場合は申請を行いましょう。

指定難病医療費助成 告示番号:113(肢帯型筋ジストロフィー)
重症度分類(臨床調査個人票)に基づき、歩行や起立に支障があるなどの条件を満たす場合、医療費の助成が受けられます。
身体障害者手帳 手足の機能障害(肢体不自由)の程度に応じて等級が認定されます。
車椅子や下肢装具、手すりの設置などの費用補助に利用できます。
介護保険(40歳以上) 筋ジストロフィーは特定疾病に該当するため、40歳から介護保険サービス(訪問リハビリやヘルパー利用など)が利用可能です。

「悪くなるのを待つだけ」ではない、別の選択肢を。

現代医学のガイドラインでは、確立された根治療法がないため「経過観察(何もしないで見守る)」が基本となることが多いのが現状です。
しかし、当研究所は「指をくわえて悪化を待つしかない」とは考えていません。

遺伝子治療の確立を待ちながらも、今すぐ私たちの手でできること。
それは、物理的な血流改善と代謝コントロールによって、筋肉が本来持っている「回復・成長しようとする力」を最大限に引き出すという選択肢です。
この「諦めないための理論」を、一冊の本にまとめました。

当研究所の「筋肉へのアプローチ理論」を知る


Amazonで書籍を確認する

『筋強直性ジストロフィーと診断されたとき最初に読む本』
※ご注意:筋強直性ジストロフィー向けに書かれた書籍ですが、
「どうすれば筋肉の壊死を減らせるか」という
根本の理論は共通しており、参考にしていただけます。
(現在、LGMD専門の書籍も構想中です)