筋ジストロフィー・ミオパチーの評価と記録テンプレ|歩行・立ち上がり・上肢・疲労を比較できる形にする

筋ジストロフィー・ミオパチーの状態を「あとで比較できる形」にする

筋ジストロフィーやミオパチーは、病型によって経過、合併症、注意すべき臓器が異なります。それでも、どの型でも共通して役立つのは、歩行・立ち上がり・上肢・疲労・体重・転倒などを、あとから比較できる形で残すことです。

このページの使い方:
家庭では、専門的な検査をまねる必要はありません。大切なのは、同じ条件で、短く、続けられる形で記録することです。記録は「良く見せるため」ではなく、変化を早めに拾い、主治医・PT・OT・ST・装具士・学校や職場に伝えやすくするために使います。
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急な呼吸困難・意識の異常・強い胸の痛みでは、記録より救急対応を優先

急に息が苦しい、呼びかけへの反応がおかしい、唇が紫色になる、強い胸の痛みが続くなどの症状では、日本国内は119へ連絡してください。海外では現地の救急番号を使います。記録の完成、SpO2の測定、問い合わせフォームの返信を待つ必要はありません。

参照:厚生労働省:こんな時は迷わず119へ。

表が画面に収まらないときは、横にスクロールして確認できます。

比較しやすく、続けやすい記録の基本

1. 短くする

毎日細かく書きすぎると続きません。家庭では、歩行、立ち上がり、上肢、疲労、転倒、体重など、生活に直結する項目に絞ります。

2. 同じ条件で比べる

同じ時間帯、同じ靴、同じ場所、同じ椅子、同じ介助条件で比べます。条件が違うと、変化の判断が難しくなります。

3. 週1記録+月1見返し

週1回、5分程度の記録と月1回の振り返りを一例に、続けやすい頻度を決めます。数週間〜数か月の変化も、体調や生活条件と一緒に確認します。

4. 無理なテストをしない

限界まで歩く、階段を無理に試す、床から立つ練習を繰り返すなどは、転倒や過負荷につながることがあります。安全な日常動作で比べます。

週1回・月1回は、家庭で記録を続けるための例です。医療機関での検査・受診の間隔を指定するものではありません。医療者から記録方法や頻度の指示がある場合は、その指示を優先し、新しい症状は記録日や月の振り返りを待たずに伝えてください。

記録より先に相談したい変化

次の症状がある場合は、記録を続けて様子を見るより、早めに主治医・専門医へ相談してください。型によって重要度は変わりますが、安全に関わる領域として共通して注意が必要です。

早めに相談したい変化
  • 転倒:転倒が増えた、階段が危ない、膝折れする、頭や顔を打った
  • 歩行:短期間で歩行距離が落ちた、つまずきが増えた、外出後に強い疲労が残る
  • 立ち上がり:椅子・トイレ・浴室・車の乗降で介助が増えた
  • 上肢:洗髪、着替え、食事、スマホ操作、筆記が急に難しくなった
  • 嚥下・栄養:むせが増えた、食事時間が伸びた、体重が下がり続ける
  • 呼吸:朝の頭痛、日中の強い眠気、横になると苦しい、咳が弱い、痰が出せない
  • 心臓:動悸、失神、前失神、胸部違和感、原因不明の息切れ
  • 急な変化:数日〜数週間で明らかに筋力、姿勢、食事、呼吸が悪化した

呼吸に関する変化は 筋ジストロフィー・ミオパチーの呼吸ケア、運動量やリハビリの調整は リハビリの基本 もあわせて確認してください。

症状が少ない時期も、病型に応じた定期評価を続ける

家庭の記録に変化がなくても、心臓・呼吸・嚥下などの検査を省けるとは限りません。必要な項目と間隔は、病型、年齢、過去の検査、治療内容に応じて主治医と確認します。上の項目は症状の原因を確定する一覧ではありません。

一般的な管理の参照:NCNP 神経筋疾患ポータル:治療・ケア。

家庭でできる共通テンプレート

ここでは、特別な道具がなくても続けやすく、あとで比較しやすい項目だけを使います。点数化よりも、同じ条件でカテゴリを比べることを優先します。

家庭の選択肢と、医療機関の標準評価を分ける

このページの「楽・普通・きつい」「可・遅い・介助」などは、生活の変化を伝えるための選択肢です。項目を足して重症度の総点を出したり、他の人と比べたりする形式ではありません。選択肢は同時に当てはまることもあるため、「手すりを使って一段ずつ」のように具体的に書いて構いません。

医療機関では、病型や歩行状態に応じてNSAA、6分間歩行、PULなどの評価を使うことがあります。NSAAとPULの引用論文はDMDを対象とするもので、この家庭用テンプレートを全病型共通の検証済み尺度にする根拠ではありません。専門評価は担当者が選んだ方法と条件で受け、家庭のメモと組み合わせます。

参照:MazzoneらのDMD歩行機能評価研究(2010)、MayhewらのPUL開発研究(2013)。

比べる前に、記録期間と条件をそろえる

つまずき・転倒の回数は、「直近7日間」など同じ長さの期間で数えます。期間が違うときは、その違いを添えてください。測っていない項目は「未測定」、安全のため行わない項目は「試さない」と書き、症状がなかったことを示す「なし・0」と区別します。

記録する条件 記入欄 記入例・確認すること
日時・記録者 記録日・時間:____
本人 / 家族 / 支援者:____
本人の感覚と、家族の観察を分けて残します。
振り返る期間 __月__日〜__月__日
日数:__日間
直近7日間の転倒1回。前回も7日間。
道具・場所・介助 靴・装具・杖・車いす:____
椅子・手すり・介助:____
同じ椅子、同じ手すり。介助者や装具が違えば、その点も記録します。
体調・活動・休憩 睡眠・感染・痛み:____
直前の活動・休憩:____
外出後、休憩してからの状態。風邪の回復中など。
最近の変更 薬・治療・装具・環境の変更:____
変更日:____
変化の原因を決めつけず、何をいつ変えたかを医療者へ伝えます。
対象の動作と安全 普段している動作:____
試さない動作・理由:____
記録のために支えや補助具を外したり、限界まで動いたりする必要はありません。

テンプレA:歩行・移動

項目 記録方法 メモするポイント
歩行の主観 楽 / 普通 / きつい 同じ時間帯、同じ靴、同じ場所で比べる
連続歩行 無理しない範囲で__分 限界まで試さない。翌日に疲労が残る測定は避ける
つまずき 0回 / 1〜2回 / 3回以上 段差、足先、靴、疲労、暗さ、場所をメモ
転倒 0回 / 1回 / 2回以上 転倒が増えたら、装具・靴・杖・手すり・環境調整を相談
補助具 なし / 杖 / 歩行器 / 車いす併用 / 車いす中心 補助具は悪化の証拠ではなく、安全と体力温存の道具

連続歩行の時間は、普段の生活で無理なく歩いた場面を残す欄です。6分間歩行試験の代わりとして実施するものではありません。途中で休んだ理由、道具、路面や場所も添え、症状を我慢して時間を延ばさないでください。

テンプレB:立ち上がり・移乗

項目 記録方法 メモするポイント
椅子から立つ 可 / 遅い / 手を使えば可 / 不可 同じ高さの椅子で比較する。低い椅子で無理に測らない
トイレ・浴室 問題なし / 手すり必要 / 見守り / 介助 事故が起きやすい場所なので、困り始めた時点で相談
車の乗降 問題なし / 工夫が必要 / 介助 / 難しい 膝折れ、足の引っかかり、疲労の出方を記録
床から立つ できる / 手を使う / 介助 / 試さない 転倒リスクがあるため、家庭で無理に試さない

テンプレC:階段・段差

項目 記録方法 メモするポイント
階段 手すりなし / 手すりあり / 一段ずつ / 介助 / 不可 階段は転倒リスクが高いため、無理に試さない
段差 問題なし / つまずく / 介助 / 避けている 玄関、浴室、駅、車の乗降、屋外段差を具体的に残す
翌日の疲労 なし / 少し / 強い 階段や外出の翌日に疲労が残るなら、生活動線を見直す

テンプレD:上肢・手指

動作 記録方法 見たい変化
洗髪 普通 / 疲れる / 休憩が必要 / 難しい 肩・上腕・体幹の疲労、腕を上げる力
着替え 普通 / 遅い / 工夫が必要 / 介助 肩、肘、手指、体幹、バランス
棚の物を取る 普通 / 遅い / 工夫が必要 / 難しい 肩甲帯、肩、肘、体幹の使い方
ボタン・ファスナー 普通 / 遅い / 難しい / できない 手指の細かい動き、疲労、ミオトニアの影響
ペットボトル 開けられる / 工夫が必要 / 難しい / できない 握力、つまみ、手指の疲労
スマホ・箸・筆記 普通 / 遅い / 疲れる / 難しい 日常生活、学校、仕事に直結する上肢機能

テンプレE:疲労と回復

項目 記録方法 相談につながる変化
午後の崩れ なし / 少し / 強い 午後に歩行、姿勢、嚥下、集中力が落ちる場合
翌日に残る疲労 なし / 少し / 強い 運動量、外出、通勤・通学、リハビリ負荷の見直しが必要なことがあります
回復に必要な時間 数時間 / 1日 / 2日以上 翌日に疲労・筋痛が残る、普段の動作に影響する場合は、量・時間・休憩方法を相談します
痛み 部位:__ 強さ:0〜10 肩、腰、膝、足首など同じ部位に痛みが続く場合は姿勢や装具も確認
痛みは、部位・時点・動作も一緒に残す

0〜10で表す場合は、0を「痛みなし」、10を「想像できる最も強い痛み」として、同じ聞き方で記録します。「今の痛み」「活動後の痛み」など、いつの痛みかも添えてください。数字で答えにくい場合は、言葉や表情、動作の変化を伝え、年齢や理解に合う方法を医療者と相談します。

「2日以上」は回復時間の選択肢であり、相談まで待つ日数ではありません。その場の強い疲労や筋痛、普段と違う脱力があれば活動を中断し、症状に応じて相談します。

痛みの数値表現の参照:LOINC:0〜10の自己申告による痛みの強さ。負荷と休息は、病型に応じて担当者と調整してください。

テンプレF:体重・食事・むせ

項目 記録方法 注意点
体重 __kg(前回比:__kg) 急な減少、じわじわ下がり続ける場合は相談
食事時間 __分 食事時間が長くなる場合、嚥下・疲労・栄養を確認
むせ なし / 増えた / 水分で多い / 食品による 食後の声の湿り、痰の増加、肺炎歴があれば早めに相談
便秘・腹部症状 なし / あり / 悪化 活動量低下、食事量、薬剤、DM1などで問題になることがあります

体重は、測定日と体重計、衣服、車いすなどの条件を添えます。安全に立てない場合は無理に立位で測らず、使える測定方法を医療者に確認してください。未測定は空欄のままにせず、その理由を残せば構いません。

月1の見返しチェック

週1の記録は、毎回深く考える必要はありません。月1回だけ、次の変化が出ていないかを見返します。

月1で見る項目
  • 歩行のカテゴリが一段悪化していないか
  • 階段が「手すりなし」から「手すりあり」「一段ずつ」「不可」に近づいていないか
  • 転倒が 0回 → 1回 → 2回以上へ増えていないか
  • 椅子・トイレ・浴室・車の乗降で介助量が増えていないか
  • 洗髪・着替え・ボタン・ペットボトル・スマホ操作が一段難しくなっていないか
  • 疲労が翌日に残るようになっていないか
  • 同じ部位の痛みが続いていないか
  • 体重が下がり続けていないか
  • むせ、食事時間、食後の声の湿りが増えていないか
  • 朝の頭痛、日中眠気、横になると苦しい、咳が弱いなどの呼吸サインが増えていないか
  • 動悸、失神感、胸部違和感が出ていないか
維持・改善・悪化を含む、前回からの変化を確認します。
毎日見ていると、本人も家族も変化に慣れてしまうことがあります。カテゴリで残すと、数週間〜数か月単位の変化に気づきやすくなります。

変化を見るときは、維持・改善・悪化のどれも、前回の条件と合わせて確認します。道具や介助、活動量が変われば、できることの見え方も変わります。単発の差や家庭のカテゴリだけで、病気の進行や治療効果を確定することはできません。

病型別に、記録で重視したいこと

同じ記録でも、何を重視するかは病型で変わります。診断名が分かっている場合は、家庭記録に加えて、各病型で見逃しやすい合併症も確認します。

病型・疾患群 記録で特に見たいこと あわせて確認したいページ
DM1
筋強直性ジストロフィー1型
疲労、眠気、転倒、ミオトニア、むせ、便秘、動悸、朝の頭痛を分けて記録します。本人が困りごとに気づきにくい場合があるため、家族の観察も役立ちます。 DM1の評価と記録
FSHD 左右差、肩甲帯、上肢挙上、体幹、下垂足、転倒、腰痛、肩痛、疲労を記録します。右と左を分けて残すことが重要です。 FSHDの評価と記録
DMD/BMD DMDでは病期を先回りして、歩行期・移行期・非歩行期の変化を記録します。BMDでは「まだ歩ける」ことで見逃しやすい疲労、痛み、活動後の崩れ、心臓・呼吸サインを記録します。 DMD/BMDの評価と記録
LGMD 肩・腰まわりの筋力、立ち上がり、階段、腕上げ、転倒、疲労を記録します。LGMDは型が多いため、心臓・呼吸の確認も並行します。 LGMDの心臓・呼吸
福山型先天性筋ジストロフィー 呼吸、嚥下、発作、姿勢、体重、感染時の変化を記録します。家族が「いつもと違う」を残すことが、医療判断に役立ちます。 福山型の評価と記録
ウルリッヒ病・COL6関連 睡眠中の呼吸、朝の頭痛、眠気、痰、姿勢、座位、痛み、疲労、装具の使用状況を記録します。歩行が保たれていても呼吸を見ます。 ウルリッヒ病の評価と記録
先天性ミオパチー 体幹、呼吸、嚥下、栄養、姿勢、側弯、麻酔予定を記録します。中心核ミオパチーでは、原因遺伝子によって注意点が変わります。 先天性ミオパチー
中心核ミオパチー(CNM) MTM1、DNM2、BIN1など原因遺伝子を確認し、呼吸、姿勢、嚥下、疲労、麻酔時の注意を記録します。 中心核ミオパチー(CNM)
代謝性ミオパチー 運動後の筋痛、脱力、褐色尿、発熱・感染・絶食・長時間運動後の変化を記録します。横紋筋融解が疑われる場合は記録より受診を優先します。 代謝性ミオパチー
ポンペ病 近位筋、立ち上がり、階段、横になると苦しい、睡眠、咳、嚥下、酵素補充療法の経過を記録します。 ポンペ病

医師・専門職に渡せる1枚まとめ

受診前に、以下を1枚にまとめると、診察やリハビリ相談で状態が伝わりやすくなります。

1枚まとめテンプレート

診断名・型
____________
記録期間
__年__月__日〜__年__月__日
歩行
連続__分 / つまずき 0・1〜2・3回以上 / 転倒 0・1・2回以上
階段
手すりなし / 手すりあり / 一段ずつ / 介助あり / 不可
立ち上がり
可 / 遅い / 手を使えば可 / 不可 介助:なし・見守り・一部・全介助
上肢
洗髪:普通・疲れる・難しい / 着替え:普通・遅い・介助 / ペットボトル:可・工夫・難しい
疲労
午後:なし・少し・強い / 翌日:なし・少し・強い / 回復:数時間・1日・2日以上
痛み
部位:____ / 強さ:0〜10で__ / 悪化する動作:____
体重・食事
体重__kg(前回比__kg) / 食事時間__分 / むせ:なし・増えた・水分で多い
呼吸サイン
朝の頭痛:なし・あり / 日中眠気:なし・少し・強い / 咳:普通・弱い / 痰:出せる・出せない
心臓サイン
動悸:なし・あり / 失神感:なし・あり / 胸部違和感:なし・あり
相談したいこと
歩行・転倒 / 装具 / リハビリ負荷 / 呼吸 / 嚥下 / 体重 / 心臓 / 遺伝 / その他:____
記録者・比較条件
記録者:____ / 前回の記録日:____
道具・介助・場所・体調の違い:____
維持・改善・悪化
前回から変わらないこと:____
楽になったこと:____ / 難しくなったこと:____
最近変更したこと
薬・治療・装具・支援・環境:____
変更日と、その後の様子:____
検査・専門評価
実施日:____ / 検査・評価名と版:____
結果・単位・測定条件:____ / 医療者の説明:____
次の予定・連絡先
次回受診・検査:____ / 担当者・連絡先:____
予定日前に連絡する症状として確認したこと:____
今回優先する相談
1. ________
2. ________

記録を続けるためのコツ

完璧に書かない

すべてを埋める必要はありません。歩行、転倒、疲労、上肢、体重など、今困っている項目から始めます。

悪い日を責めない

体調、睡眠、感染、気温、活動量で日によって変わります。単発の悪化より、数週間の傾向を見ます。

写真や動画も使う

座位、歩き方、階段、立ち上がり、装具の当たりは、短い動画や写真が役立つことがあります。撮影は安全な範囲で行います。

不安を増やす記録は減らす

記録で不安が強くなる場合は、頻度を下げます。目的は不安を増やすことではなく、相談材料を作ることです。

写真や動画は、本人の同意を得て、共有先に必要な範囲で使います。撮影のために危ない動作を再現する必要はありません。記録の頻度を下げる場合も、新しい症状を医療者へ伝えることは後回しにしないでください。

参考文献・参考情報

医学情報・参照先の確認日:2026年10月15日。DMDの評価・管理資料や各病型の診療情報は、家庭の記録と専門評価を組み合わせる考え方の参照です。このページの選択肢・記録頻度を、全病型に共通する検証済み尺度や標準的な検査間隔として示すものではありません。

免責事項

このページは、筋ジストロフィー・ミオパチーにおける評価と記録について、患者さん・ご家族が医療者と相談しやすくするための一般情報です。診断、治療、リハビリ内容、運動負荷、装具、呼吸補助、嚥下管理、栄養管理、薬剤、治験参加の可否を個別に判断するものではありません。

運動やリハビリの内容は、病型、年齢、心臓・呼吸・嚥下・関節の状態によって変わります。呼吸困難、朝の頭痛、日中の強い眠気、咳の弱さ、むせの増加、体重減少、動悸、失神、胸部違和感、転倒増加、急な筋力低下などがある場合は、主治医、神経筋疾患専門医、呼吸器専門医、循環器専門医、リハビリ専門職、救急医療機関に相談してください。