筋強直性ジストロフィー(DM):病態・症状・遺伝・標準治療の詳解

筋強直性ジストロフィーとは

筋強直性ジストロフィー(Myotonic Dystrophy: DM)は、成人で最も頻度が高い遺伝性の筋疾患です。
人口10万人あたり約10人程度の有病率と推定されています。
この病気の本質は、単なる「筋肉の病気」ではなく、眼、心臓、脳、内分泌系など、全身の臓器に症状が現れる「多臓器疾患(全身性疾患)」である点にあります。

※参考文献:難病情報センター(指定難病113)

1. 病型の分類:1型(DM1)と2型(DM2)

原因となる遺伝子の場所によって「1型」と「2型」に分類されますが、日本人の患者さんの99%以上は「1型」です。

分類 1型(DM1) 2型(DM2)
別名 シュタイネルト病 (Steinert’s disease) PROMM (近位筋強直性ミオパチー)
頻度 日本で圧倒的に多い 欧米に多い(日本では極めて稀)
原因遺伝子 19番染色体 (DMPK遺伝子) 3番染色体 (CNBP遺伝子)
症状の特徴 ・遠位筋(手先・足先)から痩せる
・顔面の筋萎縮が目立つ
・重症化しやすい(先天型あり)
・近位筋(太もも・肩)から痩せる
・比較的症状が軽い(マイルド)
・先天型はない

参考:GeneReviews Japan 筋強直性ジストロフィー

2. 発症年齢による4つの分類(1型)

1型筋強直性ジストロフィーは、発症する年齢と症状の重さによって、さらに4つのタイプに分類されます。
遺伝子の「CTGリピート(繰り返し)」の回数が多いほど、発症年齢が若くなり、症状が重くなる傾向があります(表現促進現象)。

① 先天型 (Congenital form)
  • 発症時期: 生まれた時から(または胎児期から)
  • 特徴:
    母親からの遺伝で発症することがほとんどです。
    妊娠中の胎動が弱い、羊水過多が見られることがあります。
    出生直後から呼吸不全や哺乳力低下、著しい筋緊張低下(フロッピーインファント)が見られます。
  • 予後: 新生児期の呼吸管理が重要ですが、成長とともに歩けるようになる子もいます。知的発達の遅れを伴うことが多いです。
② 小児型 (Childhood onset form)
  • 発症時期: 1歳 〜 10歳頃
  • 特徴:
    筋力低下よりも先に「学習障害」や「性格の変化」で気づかれることが多いタイプです。
    授業についていけない、友達とのコミュニケーションが苦手、などの様子から発見され、その後にミオトニア等の身体症状が現れます。
③ 成人型 (Classic form)
  • 発症時期: 10代 〜 30代
  • 特徴:
    最も典型的なタイプです。
    「手を握ると開きにくい(ミオトニア)」や「疲れやすい」、「つまづきやすい」といった症状から始まります。
    白内障、不整脈、糖尿病などの合併症も徐々に出現します。
④ 軽症型 (Late onset form)
  • 発症時期: 40代以降
  • 特徴:
    筋力低下はほとんど目立ちません。
    「白内障の手術をした時に指摘された」や「糖尿病の検査で見つかった」というケースが多く、日常生活への影響は限定的です。
3. 遺伝の原因と「進行」の仕組み
① なぜ病気が起こるのか(リピート病)

私たちの遺伝子(DNA)の中には、塩基配列が決まった回数だけ繰り返されている部分があります。
筋強直性ジストロフィー(1型)の患者さんは、19番染色体にある「DMPK」という遺伝子の中で、「CTG」という3つの文字の並びが、通常よりも異常に長く繰り返されています(異常伸長)。

  • 健常な方: 繰り返しが 5回 〜 30回程度
  • 患者さん: 繰り返しが 50回以上(数千回になることも)

この異常に長くなった遺伝子から作られるRNAが、細胞の中にある特定のタンパク質を吸着して固めてしまい、その結果、筋肉や心臓、目など全身の機能に悪影響を及ぼします(RNA毒性説)。

② 表現促進現象(アンティシペーション)

この病気の大きな特徴として、「親から子へと世代を経るごとに、症状が重くなり、発症年齢が若くなる」という傾向があります。
これを医学用語で「表現促進現象(ひょうげんそくしんげんしょう)」と呼びます。
親から子へ遺伝子が受け継がれる際に、不安定な繰り返し配列(CTGリピート)がさらに伸びてしまうことが原因です。

※特に「母親」から遺伝する場合に、リピート数が大きく伸びて重症化(先天型など)しやすい傾向があります。

③ 遺伝する確率(常染色体優性遺伝)

この病気は「常染色体優性遺伝(顕性遺伝)」という形式をとります。
性別に関係なく、両親のどちらかがこの病気の遺伝子を持っている場合、50%(2分の1)の確率で子供に遺伝します。

4. 主な症状:筋肉の変化

この病気の診断のきっかけとなる、特徴的な筋肉の症状について解説します。

① ミオトニア(筋強直現象)

「筋肉の力が弱い」のではなく、「一度収縮した筋肉が、リラックスできずに固まってしまう」現象です。
初期症状として最も多く見られます。

グリップ・ミオトニア
雑巾を強く絞った後や、吊り革を強く握った後に、指がこわばってすぐに開かなくなります。
パーカッション・ミオトニア
医師が診察時に行う検査です。親指の付け根の筋肉などをハンマーで叩くと、その部分が盛り上がったまましばらく元に戻らなくなります。
ウォームアップ現象
動き始めは硬いですが、何度か同じ動作を繰り返していると、徐々に筋肉がほぐれて動きやすくなるのが特徴です。

② 筋力低下の特徴(どこが痩せるか)

他の筋ジストロフィーとは異なり、以下の部位から筋肉が痩せていくのが特徴です。

顔・首(特徴的な顔つき)

  • こめかみがくぼむ
  • 頬がこける(斧様顔貌:おのようがんぼう)
  • まぶたが下がる(眼瞼下垂)
  • 首が細くなり、仰向けから頭を持ち上げにくくなる

手足の先(遠位筋)

  • ペットボトルのキャップが開けにくい(指の力)
  • 足首が上がらず、小さな段差でつまづく(垂れ足)
  • ※太ももや二の腕の力は、比較的後期まで保たれることが多いです。

参考:日本神経学会 治療ガイドライン

5. 筋肉以外の症状(全身合併症)

筋強直性ジストロフィーは全身性疾患であり、筋肉以外の症状が生活に大きな影響を与えることが少なくありません。
特に心臓と呼吸の問題は、自覚症状がなくても定期的なチェックが必須です。

👁️ 眼の症状
  • 白内障: ほぼ全例に現れます。特徴的な「クリスマスツリー様混濁」が見られ、若いうちに手術が必要になることが多いです。
  • 網膜色素変性症: 暗いところで見えにくくなる(夜盲)ことがあります。
  • 眼瞼下垂: まぶたを持ち上げる筋肉が弱り、視野が狭くなります。
🫀 心臓の症状(要注意)
  • 伝導障害・不整脈: 心臓を動かす電気信号がうまく伝わらなくなります(房室ブロックなど)。
  • 突然死のリスク: 自覚症状がなくても進行している場合があり、ある日突然、心停止を起こすリスクがあります。
  • ※年に1回の心電図検査(ホルター心電図含む)は必須です。
🫁 呼吸の症状
  • 呼吸筋麻痺: 横隔膜などの力が弱まり、肺活量が低下します。
  • 睡眠時無呼吸症候群: 寝ている間に呼吸が止まりやすくなります。
  • 誤嚥(ごえん): 飲み込む力が弱くなり、肺炎(誤嚥性肺炎)を起こしやすくなります。

その他の全身症状

■ 代謝・内分泌系
糖尿病(耐糖能異常): インスリンの効きが悪くなり、血糖値が高くなりやすいです。
脂質異常症: コレステロールや中性脂肪が高値になる傾向があります。
前頭部脱毛: 男性だけでなく女性でも、額の生え際が後退することがあります。
■ 中枢神経(脳)の症状
日中の過眠: 夜しっかり寝ていても、昼間に耐え難い眠気に襲われます(ナルコレプシー様症状)。
アパシー(意欲低下): 「やる気がない」「無関心」に見えることがありますが、これは性格ではなく病気の症状です。
軽度の認知機能障害: 遂行機能(段取り良く物事を行う能力)や視空間認知が苦手になることがあります。
■ 消化器症状
嚥下障害: 硬いものや水が飲み込みにくい。
便通異常: 腸の動き(蠕動運動)が弱まり、頑固な便秘や下痢を繰り返すことがあります(巨大結腸症のリスク)。

参考:筋強直性ジストロフィー患者会(DM-family) / 国立精神・神経医療研究センター

6. 診断と検査

特徴的な症状(ミオトニアや斧様顔貌)に加え、以下の検査を行って診断を確定します。

① 針筋電図検査(はりきんでんず)
筋肉に細い針を刺して電気活動を調べる検査です。
筋強直性ジストロフィーでは、「急降下爆撃音(ミオトニア放電)」と呼ばれる、バイクのエンジン音のような特徴的な音が確認されます。これが臨床診断の強力な根拠となります。
② 遺伝子検査(確定診断)
血液を採取し、19番染色体にあるDMPK遺伝子の「CTGリピート数」を測定します。
リピート数が正常範囲(35回以下)を超えて異常に増えている(50回以上)ことが確認されれば、診断が確定します。
③ その他の全身検査
・血液検査(CK値は正常〜軽度上昇にとどまることが多いです)
・心電図、心エコー(不整脈の確認)
・眼科検査(細隙灯顕微鏡での白内障確認)
・頭部MRI(白質病変や脳萎縮の確認)
7. 現代医学における治療と管理

残念ながら、現時点では遺伝子そのものを修復する根本治療薬は承認されていません。
しかし、個々の症状をコントロールする「対症療法」を行うことで、QOL(生活の質)を維持し、合併症によるリスクを減らすことは十分に可能です。

■ ミオトニアへの治療

手足のこわばりが強く、日常生活に支障がある場合は、ナトリウムチャネル遮断薬(メキシレチンなど)を使用することで症状を緩和できます。
※ただし、心伝導障害がある場合は慎重な投与が必要です。

■ 心臓の管理(ペースメーカー)

致死的な不整脈や高度なブロックが見つかった場合、予防的にペースメーカーやICD(植込み型除細動器)を導入することで、突然死を防ぐことができます。

■ 呼吸サポート

睡眠時の呼吸が浅くなる場合、夜間だけNPPV(マスク式人工呼吸器)を使用することで、日中の眠気や頭痛が劇的に改善することがあります。

■ 白内障手術

視力の低下はQOLを大きく下げます。一般的な白内障手術と同様の手法で視力を回復させることができます。

8. 治療薬開発の最前線

世界中で活発に研究が行われています。特に注目されているアプローチを紹介します。

① 既存薬のドラッグ・リポジショニング
すでに別の病気で使われている薬を、筋強直性ジストロフィーに転用する研究です。
例えば、抗生物質の一種である「エリスロマイシン」が、原因となる異常RNAを減らす効果があることが大阪大学などの研究で発見され、医師主導治験が行われています。
② 核酸医薬(アンチセンス医薬など)
原因となっている異常なRNAそのものを分解したり、働きを抑えたりする新しいタイプの薬です。
海外や日本で治験が進められていますが、実用化にはまだ時間がかかると予想されています。しかし、根本治療に最も近いアプローチとして期待されています。

参考:大阪大学医学部附属病院 治験情報

9. 生活上の注意点とリハビリ

進行を遅らせ、安全に暮らすために「やってはいけないこと」と「やるべきこと」があります。

⚠️ 手術・麻酔時の注意(命に関わります)

筋強直性ジストロフィーの患者さんは、麻酔薬や鎮静剤に対して過敏に反応し、術後に呼吸が止まってしまうリスクが非常に高いです。
たとえ簡単な胃カメラ検査や抜歯であっても、必ず主治医に「筋強直性ジストロフィーであること」を伝え、呼吸管理の準備がある施設で行う必要があります。

※「患者カード」や「緊急時連絡先」を常に財布に入れておくことを強く推奨します。

🏃 リハビリテーションの原則

「筋肉が弱るから鍛えなきゃ」と無理な筋トレをするのは逆効果です。壊れやすい筋肉を痛めつけ、かえって進行を早めてしまいます。

  • 推奨: ウォーキング、ストレッチ、軽い有酸素運動(疲れが翌日に残らない程度)。
  • 非推奨: 重いダンベルを持つ、坂道ダッシュなどの「高負荷トレーニング」。

👶 妊娠・出産と遺伝相談

女性患者さんの場合、妊娠中に羊水過多や切迫早産のリスクが高まります。
また、母親から子へ遺伝する場合に重症化(先天型)するリスクがあるため、妊娠を希望される段階で、専門医による遺伝カウンセリングを受けることが大切です。

10. 知っておくべき公的支援

長期の療養生活を支えるため、以下の制度の申請を検討してください。

指定難病医療費助成 筋強直性ジストロフィーは国の指定難病です。
告示番号:113
重症度分類で一定以上の場合、医療費の自己負担が軽減されます。保健所での申請が必要です。
身体障害者手帳 手足の不自由さ(肢体不自由)の程度に応じて交付されます。
公共交通機関の割引、税金の控除、車椅子や補装具の補助などが受けられます。
障害年金 病気のために仕事や生活に制限がある場合、現役世代でも受け取れる年金です。
※初診日の証明などが必要になります。

参考:難病情報センター(厚生労働省)

「進行を待つ」だけの時間は、もう終わりです。

ここまで、現代医学における標準的な知識と管理法について解説してきました。
確かに、遺伝子の変異そのものを消すことは、今の科学ではまだ難しいかもしれません。

しかし、「遺伝子に変異がある=筋肉が必ず萎縮し続ける」という常識は、物理的なアプローチによって覆されつつあります。
当研究所では、血流と代謝を物理的にコントロールすることで、多くの患者さんが「進行の停止」や「機能の回復」を実現しています。

その具体的な根拠と方法論を、一冊の本にまとめました。


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