便秘と下痢を繰り返す。食後にお腹が張る。トイレが心配で外出をためらう。筋強直性ジストロフィー1型(DM1)では、手足だけでなく、消化管の働きにも変化が起こることがあります。
ただし、胃腸の不調をすべてDM1のせいにすると、薬の影響や便のたまりなど、対応できる原因を見逃すことがあります。症状に合った治療と食事・排便環境の調整を組み合わせることで、食事や外出の負担を軽くできる可能性があります。
主に成人のDM1がある方と、ご家族に向けた一般的な情報です。治療中の方は、主治医から受けている個別の指示を優先してください。
DM1では、腸の動きや便の出しやすさも変わる
食べ物を先へ送る消化管の運動には、平滑筋などが関わっています。DM1ではこうした働きにも影響が及び、便秘、下痢、お腹の張り、腹痛、便が漏れるといった症状がみられます。手足の筋力低下が軽いからといって、胃腸の症状も軽いとは限りません。[1]
一方で、飲んでいる薬、食事や水分の不足、活動や生活リズムの変化なども排便に影響します。「DM1に伴う腸の動きの変化」と「別に対処できる要因」が重なっている場合もあるため、症状だけで原因を決めつけないことが大切です。[3]
| 困っていること | 診察で伝えると役立つ内容 |
|---|---|
| 便秘・出しにくさ | 何日出ていないかに加え、便の硬さ、強くいきむか、出ても残る感じがあるか。毎日少量出ていても、出しにくさが続くなら相談できます。 |
| 下痢・急な便意 | 水のような便か、やわらかい便か。食後・夜間などの時間帯、便秘との入れ替わり、薬との関係。 |
| 便が漏れる | 便意に気づきにくいのか、移動が間に合わないのか。便秘が続いた後に少量の水様便だけ漏れることはないか。 |
| お腹の張り | 食事との関係、痛みや吐き気、食べられる量、便やおならが出ているか。 |
特に、長く便秘が続いた後の「下痢」には注意が必要です。硬い便がたまった周囲から液状の便が漏れ、下痢のように見える場合があります。下痢止めを追加する前に、便秘の経過も医師へ伝えてください。[4]
強い腹痛や嘔吐があるときは、次の定期受診を待たない
強い、または続く腹痛に、繰り返す嘔吐・著しいお腹の張り・便もおならも出ない状態が伴う場合は、速やかに医療機関へ連絡してください。腸閉塞などとの区別が必要です。DM1では、物理的な詰まりがなくても腸の動きが強く低下する「偽性腸閉塞」が起こることもあります。
血便、原因のわからない体重減少、発熱を伴う便通異常も、早めの受診が必要な変化です。意識が悪いなど切迫した状態では119番へ連絡してください。[1] [3]
いつもの症状でも、食事や外出に影響するなら相談してよい
「昔からだから」「筋肉の病気だから」と我慢する必要はありません。便通が不安定で食事を減らしている、外出を断ることが増えた、下剤を飲むと下痢になって調整できない、といった困りごとも治療を相談する理由になります。
まずは通院中の脳神経内科やかかりつけ医に伝え、症状が続く場合や治療で改善しない場合は、消化器内科との連携を相談します。必要な検査は、便の状態、腹部の診察、服薬、体重の変化などから個別に判断されます。[1] [2]
2025年のENMC専門家ワークショップでも、DMの胃腸症状は生活への影響が大きく、人によって、また同じ人でも時期によって異なるため、個別の対応が必要だと整理されています。[5]
食事・水分・トイレで調整できること
食物繊維は、急に大量に増やさない
便秘への対応として食物繊維が役立つことはありますが、一度に増やすとガスや張りがつらくなる場合があります。今の食事で不足していそうなものを少しずつ補い、便の出しやすさと張りの両方をみながら調整します。[4] [6]
すでに強く張っている、吐いている、便もおならも出ない場合は、食物繊維やサプリを増やして様子を見る段階ではありません。先に受診してください。
水分は、飲み込みや心臓の状態に合わせる
水分不足は便が硬くなる一因です。ただし、全員に一律の量を勧めることはできません。むせがある場合は飲みやすい形や飲み方を相談し、心臓・腎臓の病気などで水分量の指示を受けている方は、その範囲で調整します。[1] [3]
「食べないことで下痢を避ける」が続くときは、栄養も相談する
外出前に食事を抜くなどの対応が続くと、必要な栄養を取りにくくなります。食後に症状が出る場合は、食べたもの・量・症状が出るまでの時間をいくつか伝え、食事量や内容の調整を医師・管理栄養士に相談してください。
多くの食品を一度に除いたり、張りがあるからと食物繊維をすべて避けたりすると、何が合うかもわかりにくくなります。体重が落ちている場合は、便通の調整と栄養の確保を一緒に進めます。[1] [2]
トイレまでの移動や衣服の扱いも、対策の対象になる
便意があっても、立ち上がりや移動、ズボンの上げ下げに時間がかかって間に合わないことがあります。急いで動く負担を減らすため、よく使うトイレへの動線、手すり、脱ぎ着しやすい衣服、介助を頼むタイミングを見直してみてください。
排便しやすい時間を確保することに加え、座位が不安定な方は姿勢や足の支えも作業療法士などに相談できます。外出先の使いやすいトイレや休憩場所を先に決めておくと、症状の治療と合わせて外出の準備をしやすくなります。
薬は「出す・止める」だけでなく、便の状態に合わせて調整する
便秘には便をやわらかくする薬や腸の動きに働きかける薬などがあり、下痢も原因によって対応が変わります。下剤と下痢止めを自己判断で交互に増やすより、処方薬・市販薬・サプリをまとめて医師や薬剤師へ伝え、量や使うタイミングを相談するほうが調整につながります。[2]
DM1では、腸内の細菌が小腸で過剰に増えることが下痢や張りに関わる場合もあります。ただし、症状だけで決められるものではありません。必要に応じて専門医が検査や治療を判断するもので、抗菌薬を自分で始める根拠にはなりません。[2]
内視鏡などの検査では、DM1と呼吸・心臓の情報を先に伝える
胃腸の検査が必要になったら、予約時点でDM1があること、呼吸補助装置の使用、心臓の病気、以前の麻酔や鎮静で困ったことを共有してください。鎮静薬などへの配慮が必要なため、消化器内科と普段の主治医が連携できると安心です。必要な検査を避けるためではなく、安全に受ける準備として伝えます。[1] [2]
診察では、「便の状態」と「生活で困る場面」を短く伝える
毎日の詳細な記録を続ける必要はありません。わかる範囲で、次の内容をスマートフォンや紙に残しておくと、治療を調整する相談がしやすくなります。受診を急ぐ症状がある場合は、記録をそろえるために受診を遅らせないでください。
上の欄はコピー用です。入力や送信は行いません。記録はご自身のメモ帳などへ貼り付けて使ってください。
よくある質問
毎日少し出ていれば、便秘ではありませんか?
回数だけでは判断できません。便が硬い、強くいきまないと出ない、出ても残る感じがある場合も相談の対象です。「毎日出る」だけでなく「楽に十分出せているか」を伝えてください。[3]
便秘と下痢を繰り返すのは、過敏性腸症候群ですか?
それだけでは決められません。DM1による消化管の動きの変化、薬の影響、便のたまりなども考える必要があります。これまでと違う変化や血便、体重減少があれば、いつもの症状として扱わず受診してください。
診察で便漏れのことを話しにくいです。
「急な便意で間に合わない」「下着が汚れる」と書いて見せるだけでも伝わります。便の状態に加え、トイレへの移動や介助の問題も含めて相談できます。ご本人が話しにくい場合は、希望に応じてご家族に補足してもらう方法もあります。
便通が整うことは、食事や外出のしやすさにもつながる
DM1そのものをすぐに変えることが難しくても、胃腸の不調に対してできることがなくなるわけではありません。便がたまっていないか、薬が合っているか、食事や水分が不足していないか、トイレを使いにくくないか。対応できる点が見つかれば、負担を軽くできる可能性があります。
目指すのは、排便回数だけを一定にすることではなく、痛みや張り、急な便意への不安が減り、食事や外出を選びやすくなることです。今いちばん困っている場面を一つ伝えるところから、主治医と調整を始めてみてください。
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参考資料
- Myotonic Dystrophy Foundation. Gastrointestinal system.
- Ashizawa T, et al. Consensus-based care recommendations for adults with myotonic dystrophy type 1. Neurol Clin Pract. 2018;8(6):507–520. doi:10.1212/CPJ.0000000000000531.
- NIDDK. Symptoms & Causes of Constipation.
- NHS. Constipation.
- ENMC. Towards better diagnosing, understanding and treating gastrointestinal symptoms in myotonic dystrophy. 第288回ワークショップ、2025年5月16–18日。
- NIDDK. Eating, Diet, & Nutrition for Constipation.
資料確認日:2026年10月26日。海外の推奨に含まれる薬剤や検査は、日本での適応や利用状況が異なる場合があります。具体的な治療は主治医と相談してください。
