デュシェンヌ型・ベッカー型筋ジストロフィー(DMD/BMD):病態・経過・遺伝の詳解

ジストロフィノパチー(DMD / BMD)とは

デュシェンヌ型(DMD)とベッカー型(BMD)は、かつては別の疾患として扱われていましたが、現在は「ジストロフィン遺伝子」の変異によって起こる一連の疾患群(ジストロフィノパチー)として定義されています。
両者の違いは、筋肉を守るタンパク質「ジストロフィン」が「ほぼ欠損している(DMD)」か、「不完全ながら作られている(BMD)」かという、量と質の差に由来します。

出典:難病情報センター(指定難病14)

1. 原因物質「ジストロフィン」の役割

X染色体上にあるジストロフィン遺伝子は、ヒトの遺伝子の中で最大級の大きさを持っています。ここから作られるタンパク質の役割を理解することが、病気の理解の第一歩です。

筋肉の「ショックアブソーバー(衝撃吸収材)」
筋肉は収縮と弛緩を繰り返すたびに、細胞膜に強い物理的負荷がかかります。
ジストロフィンは、筋肉の細胞膜の裏側に張り付き、「筋肉が動く時の衝撃を吸収し、細胞膜が破れないように守るクッション」のような役割を果たしています。
欠損するとどうなるか(壊死と再生)
このクッションがないと、筋肉を動かすたびに細胞膜が傷つき、壊れてしまいます(壊死)。
初期は再生能力が働きますが、破壊のスピードに再生が追いつかなくなると、筋肉は徐々に脂肪や線維組織に置き換わり、筋力が低下していきます。
2. デュシェンヌ型とベッカー型の違い

一般的に「13歳を超えても歩行が可能かどうか」が臨床的な分類の目安とされていますが、近年は遺伝子検査によって正確に診断されます。

項目 デュシェンヌ型(DMD) ベッカー型(BMD)
ジストロフィンの状態 ほぼ完全に欠損 不完全・量が少ない
(機能の一部は保たれる)
発症時期 幼児期(3〜5歳頃)
転びやすい・走るのが遅い
学童期〜成人
(個人差が非常に大きい)
進行のスピード 速い
10歳頃から車椅子が必要になることが多い
緩やか
成人になっても歩行可能なことが多い
発生頻度 男児 3,500人に1人 男児 2〜3万人に1人

参考:GeneReviews Japan(ジストロフィノパチー)

3. 重症度の違いを生む「リーディング・フレーム」

なぜ同じ遺伝子の異常なのに、重症(DMD)と軽症(BMD)に分かれるのでしょうか。
これを説明するのが、遺伝子の設計図の「読み枠(Reading frame)」という概念です。

■ DMD:アウト・オブ・フレーム

遺伝子の一部が欠けたことで、設計図の「読み枠」がズレてしまい、その先が全く読めなくなってしまう状態です。
結果、タンパク質の合成が途中でストップし、機能するジストロフィンが作られません。
(例:「あかいきつね」→「あ・いきつね・・」→意味不明で終了)

■ BMD:イン・フレーム

遺伝子の一部が欠けても、3の倍数で欠損するなどして「読み枠」のズレが起きず、最後まで読み取れる状態です。
本来より少し短い形にはなりますが、ある程度機能を持ったジストロフィンが生成されます。
(例:「あかいきつね」→「あ・いきつね」→「あいつね」→意味は通じる)

💡 最新治療との関連
現在実用化されている「エクソン・スキップ治療薬」は、この原理を応用しています。
薬剤によって人工的に遺伝子の読み飛ばしを行い、DMD(アウト・オブ・フレーム)の状態を、BMD(イン・フレーム)の状態に近づけることで、症状を緩和させる治療法です。

4. デュシェンヌ型(DMD)の年齢別経過

DMDは年齢とともに症状が進行していく疾患です。個人差はありますが、一般的に以下のような経過をたどります。
※ステロイド治療などの早期介入により、歩行期間の延長など、経過は大きく改善しつつあります。

幼児期(0歳 〜 5歳頃)

「歩き始めが遅い(1歳半〜)」ことで気づかれる場合がありますが、3歳頃までは目立った症状がないことも多いです。
3〜5歳頃になると、「転びやすい」「走るのが遅い」「階段を上るのを嫌がる」「ジャンプができない」といった運動面での遅れが目立ち始めます。

学童期前半(6歳 〜 9歳頃)

特徴的な歩き方(動揺性歩行:お尻を振って歩く)や、立ち上がり方(登攀性起立)が見られます。
アキレス腱が硬くなり始め、つま先立ちになることがあります。この時期からステロイド治療を開始することで、歩行機能の維持を目指します。

歩行不能期への移行(10歳 〜 12歳頃)

自然経過では10歳前後で歩行が困難になり、車椅子生活へと移行します。
車椅子になると、急速に「背骨の曲がり(側弯症)」が進行しやすくなるため、適切な座位保持装置やリハビリ、場合によっては固定手術が必要になります。

青年期(15歳以降)

上肢(腕)の筋力低下が進み、食事や着替えに介助が必要になります。
また、呼吸筋や心筋への影響が現れ始めるため、人工呼吸器(NPPV)の導入や心不全の管理が生命予後を左右する重要な時期となります。

5. 診断の手がかりとなる身体的特徴

DMDのお子さんには、いくつかの特徴的な身体サインが見られます。これらは診断の重要な手がかりとなります。

登攀性起立(とうはんせいきりつ)

別名:ガワーズ徴候(Gowers’ sign)
床から立ち上がる際に、足の力だけでスッと立つことができず、手を自分の膝や太ももについて、よじ登るようにして体を持ち上げる動作です。
お尻や太ももの筋肉(近位筋)が弱くなっているサインです。

ふくらはぎの仮性肥大

ふくらはぎの筋肉が、まるでスポーツ選手のようにパンパンに太く硬く見えます。
しかし、これは筋肉がついているのではなく、壊れた筋肉が脂肪や線維組織に置き換わって太くなっている(仮の肥大)状態です。
実際には筋力は低下しています。

6. 知的発達と神経発達症(発達障害)

ジストロフィンは筋肉だけでなく、脳の神経細胞にも存在し、情報の伝達に関わっています。
そのため、DMDのお子さんでは以下のような特性を伴うことが知られています。

  • 知的障害: 全体の約30〜40%程度に見られますが、重度は少なく、軽度〜境界域が多い傾向があります。
  • 神経発達症(ASD/ADHD): 自閉スペクトラム症(こだわりが強い、コミュニケーションが苦手)や、注意欠如・多動症(落ち着きがない)の合併率が高いことが分かっています。
  • 言語発達の遅れ: 言葉が出るのが遅いことが、運動症状よりも先に気づかれるケースがあります。

参考:国立精神・神経医療研究センター(筋ジストロフィーの解説)

7. ベッカー型(BMD)の特徴と注意点

ベッカー型は、不完全ながらもジストロフィンが作られているため、デュシェンヌ型に比べて症状は軽度で、進行も緩やかです。
しかし、「歩けるから大丈夫」と油断してはいけない特有のリスクがあります。

① 症状の個人差が非常に大きい
15歳頃で歩行が難しくなる方もいれば、60代まで自立歩行が可能な方もいます。
「足がつりやすい(こむら返り)」や「激しい運動後の筋肉痛が治りにくい」といった症状だけで、日常生活にはほぼ支障がない軽症例も存在します。
② 心不全のリスク(最重要)
これがBMDで最も注意すべき点です。
手足の筋力は保たれていて元気に動けるのに、「心臓の筋肉(心筋)だけが先に弱ってしまう」ケースがあります(心筋症主体型)。
自覚症状(息切れやむくみ)が出た時にはすでに重症化していることがあるため、症状がなくても定期的な心臓検査(心エコー・BNP採血)が絶対に必要です。
8. 女性保因者と「発症保因者」

DMD/BMDはX連鎖性遺伝のため、基本的に男性に発症しますが、遺伝子変異を持っている女性(保因者)にも症状が出ることがあります。

保因者(Carrier)とは

2本あるX染色体の片方に変異がある女性のことです。
通常は、もう片方の正常なX染色体がカバーするため症状は出ませんが、母親が保因者の場合、男児に50%の確率で病気が遺伝します。
※ただし、DMD患者の母親の約3分の1は保因者ではなく、子供の代で初めて変異が起きた「突然変異」です。

発症保因者(Manifesting Carrier)

女性でも、筋肉の症状や心臓の症状が現れることがあり、これを「発症保因者」と呼びます。

【特に注意すべき点】
筋力低下はなくても、「心機能障害(拡張型心筋症)」だけが将来的に現れるリスクがあります。
保因者と診断された女性は、数年に1度は心臓のチェックを受けることが推奨されています。

参考:筋ジストロフィー診療ガイドライン2020(日本神経学会)

9. 診断と検査のプロセス

「足がおかしいかも?」と気づいてから、確定診断に至るまでの一般的な流れです。
現在は、体に負担の少ない「血液検査(遺伝子検査)」で確定診断が可能です。

① 血液検査(CK値の測定)
最初に行うスクリーニング検査です。
筋肉が壊れると、筋肉の中にある酵素「CK(クレアチンキナーゼ)」が血液中に漏れ出します。
通常は数百程度ですが、DMDでは数千〜数万という桁違いの高値を示します。これが最初の診断の手がかりになります。
② 遺伝子検査(確定診断)
血液からDNAを抽出し、ジストロフィン遺伝子に変異があるかを調べます。
MLPA法などで遺伝子の「欠失」や「重複」を調べ、見つからない場合はさらに詳しい解析(シーケンス)を行います。
※現在は、痛みを伴う「筋生検(筋肉を一部切り取る手術)」を行わなくても、遺伝子検査だけで診断がつくことがほとんどです。
10. 現在の標準治療:ステロイド療法

現在、DMDに対して世界中で推奨されている最も基本的な治療法です。
副腎皮質ステロイド薬(プレドニゾロン等)を内服することで、筋力の低下を遅らせる効果が証明されています。

期待される効果

  • 歩行期間の延長: 車椅子になる時期を数年単位で遅らせることができます。
  • 呼吸機能・心機能の維持: 呼吸筋や心筋の力も保たれやすくなります。
  • 側弯(背骨の曲がり)の予防: 歩行期間が延びることで、重度の側弯の発症を抑えられます。

副作用と対策

  • 体重増加(満月様顔貌): 食事管理が非常に重要になります。
  • 低身長: 成長ホルモンの分泌が抑えられ、背が伸びにくくなります。
  • 骨粗鬆症: 骨がもろくなりやすいため、骨折に注意が必要です。

※開始時期は、運動機能のプラトー期(伸び悩み時期)である4〜6歳頃が推奨されています。

11. 合併症予防とリハビリテーション
■ リハビリの鉄則
「関節を固くしない(拘縮予防)」が最大の目的です。アキレス腱や股関節のストレッチを毎日行います。
※強い筋トレ(特に筋肉を伸ばしながら力を入れる動作)は、筋肉を壊してしまうため禁忌(やってはいけない)です。
■ 呼吸のケア
肺活量が低下する前から、「息を吸って止める練習(エアスタッキング)」などを行い、肺や胸郭の柔らかさを保ちます。
痰を出す力が弱くなった場合は、「カフアシスト」等の排痰補助装置を使用します。
■ 心臓の保護
心臓の機能低下が見られる前から、心臓の負担を減らす薬(ACE阻害薬やβ遮断薬)を内服し、心不全を予防的にコントロールすることが一般的になっています。

参考:日本神経学会 筋ジストロフィー診療ガイドライン

12. 実用化された最新治療:エクソン・スキップ

これまで「治らない」と言われてきたDMDですが、近年、遺伝子の読み取り方を修正する画期的な薬が登場し、日本でも承認されています。

🧬 エクソン・スキップ治療とは?

Part 1で解説した「DMD(重症)をBMD(軽症)に変える」治療法です。
薬剤(アンチセンス核酸)を使って、遺伝子の異常な部分を人工的に「読み飛ばす(スキップする)」ことで、ズレてしまった設計図の「読み枠」を修正します。

【効果】
これにより、本来は作られなかったジストロフィンが、不完全ながらも作られるようになり、病気の進行を抑えることができます。

【対象】
すべての患者さんに効くわけではなく、遺伝子の「どこが欠けているか」によって使える薬が決まります(例:エクソン53番スキップ薬「ビルテプソ」など)。

その他のアプローチ

  • リードスルー治療: 遺伝子の読み取りが途中で止まってしまう「ナンセンス変異」の患者さんに対し、読み取りを継続させる薬(アタルレン等)の研究が進んでいます。
  • 遺伝子導入療法: ウイルスベクターを使って、正常なジストロフィン遺伝子(の短縮版)を直接筋肉に届ける治療法も、海外を中心に治験が進んでいます。

参考:国立精神・神経医療研究センター(NCNP)

13. 活用すべき公的支援制度

小児期から発症するため、成人の難病とは異なる支援制度も利用できます。

小児慢性特定疾病
医療費助成
18歳未満の児童が対象。医療費の自己負担分が補助されます。
成人(18歳以降)になったら「指定難病(難病法)」へ切り替える必要があります。
特別児童扶養手当 20歳未満で、精神または身体に障害がある児童を養育している保護者に支給される手当です。
※所得制限などがあります。
指定難病(成人) 告示番号:14(デュシェンヌ型筋ジストロフィー)
医療費助成のほか、就労支援や福祉サービスを受ける際の根拠となります。

遺伝子治療と共に、物理的ケアを。

デュシェンヌ型筋ジストロフィーの治療環境は、ここ数年で劇的に変化しています。
新しい薬が登場し、「進行を遅らせる」ことから「機能を維持・改善する」時代へと入りつつあります。

当研究所(Cell Healing)では、最新の医療と並行して、「物理的なアプローチで筋肉の血流と代謝を支えること」が、薬の効果を最大限に引き出し、子供たちの可能性を広げると確信しています。
「何かできることはないか」と探されているご家族へ、私たちの実践と記録をお届けします。

当研究所のアプローチと理論的背景


Amazonで書籍を確認する

※筋強直性ジストロフィーに関する著書ですが、
物理的アプローチの原理は共通しています。
DMD/BMDに関する書籍も現在執筆中です。