脳深部刺激療法・オフ時間・ジスキネジアと治療の選択
動ける時間を支えるために、DBSで何を目指せるかを知る
「薬を調整しても、次の服薬まで動きにくい時間がある」「体が勝手に動いて、食事や着替えが落ち着かない」「DBSを勧められたけれど、自分に何が期待できるのか分からない」。治療を考えるときは、病名や進行度とともに、生活で何を変えたいかを整理することが大切です。
脳深部刺激療法(DBS)は、脳内の電極から電気刺激を送り、パーキンソン病の運動症状の負担を減らす治療です。期待できる症状、残りやすい困りごと、手術と機器管理の負担を知ると、適応評価で聞きたいことが具体的になります。
DBSを相談するときに、まず整理したい3つのこと
- 改善したい症状:オフ、ふるえ、ジスキネジアなど、何が生活を妨げているか。
- 薬が効くときの変化:動きやすくなる症状と、オンでも残る困りごとは何か。
- 治療後の生活:通院での調整、機器の操作・充電、必要な支援をどう続けるか。
適応評価を受けることは、自分に合う選択肢を検討する機会です。評価結果をもとに、手術を受けるか、別の治療や支援を組み合わせるかを相談します。
脳深部刺激療法(DBS)とは?電気刺激を調整して使う治療
DBSは、脳の特定の部位に電極を留置し、胸部などの皮下に植え込んだ刺激発生装置とつなぐ治療です。電極から電気刺激を送り、運動に関わる神経回路の働きを調整します。刺激の条件は、効果と副作用を見ながら変更できます。[1][7]
主に目指すのは、オフの時間や症状、ふるえ、ジスキネジアなどの負担を減らし、生活で動きやすい時間を支えることです。DBSは、失われた神経細胞を元に戻す治療ではなく、パーキンソン病の進行を止める効果が確立した治療でもありません。[3][6][7]
手術後も、多くの方で薬による治療が続きます。刺激の調整と薬の調整を組み合わせ、その方に合う状態を探していきます。[6][7]
期待できる症状と、別の支援も必要になりやすい症状
DBSの効果を考えるうえで、レボドパでどの症状が改善するかは重要な情報です。ただし、薬への反応だけで適応を決めるわけではなく、薬で十分に抑えられないふるえが検討対象になる場合もあります。[2]
| 症状・困りごと | 目指せる変化 | 確認したいこと |
|---|---|---|
| オフ時の動作の遅さ・固さ | 薬が切れた時間帯の運動症状を軽減し、動きやすい時間を増やす。 | 薬が効くと、どの動作がどの程度しやすくなるか。 |
| 生活を妨げるふるえ | ふるえを軽減する。薬で十分に抑えられない場合も評価対象になり得る。 | 診断の確かさ、薬の試し方、ふるえで困る具体的な作業。 |
| ジスキネジア | 刺激と薬の調整によって、不随意運動の負担を減らす。 | 起きる時間と生活への影響、刺激部位、薬を減らす必要性。 |
| すくみ足・転倒・姿勢の不安定さ | オフに伴い薬で改善する部分では、変化が期待できる場合がある。 | オンでも強く残る症状は効果が限られやすい。悪化や別の対策の必要性も相談する。 |
| 声・話し方・飲み込み・認知の問題 | それぞれの評価と支援を組み合わせる。 | 一律の改善を期待しにくく、刺激や手術後に変化・悪化がみられる場合もある。 |
効果は症状、刺激する部位、電極の位置、設定、薬、経過によって異なります。表は一般的な整理であり、個別の改善を予測するものではありません。[2][3][6][7]
「歩きたい」という目標も、オフで足が出ないのか、オンでもバランスを崩すのかで、検討する対策が変わります。いちばん改善したい症状について、DBSで見込める部分と、リハビリや環境調整で支える部分を確認しましょう。
症状の整理には、ウェアリングオフ・オンオフ現象、ジスキネジアと日常動作の負担も参考になります。
臨床研究では、動きやすい時間と生活の質の改善が示されている
薬を十分に調整しても運動症状の変動が残る方では、DBSによる運動症状と生活の質の改善が、比較試験や診療指針で示されています。対象となる方を選び、専門施設で評価・調整することが前提です。[3]
2009年のランダム化比較試験では、進行期パーキンソン病の255人を対象に、DBSと最善の薬物治療を比較しました。6か月後、困るジスキネジアのないオン時間は、DBS群で平均4.6時間/日増加し、薬物治療群では平均0時間/日でした。生活の質にも改善がみられました。一方で、DBS群では重い有害事象が多く報告されました。[4]
この数字は、適応条件を満たした研究参加者の平均です。自分にも同じ時間の増加が得られると見込むものではなく、長期の進行停止を示す結果でもありません。診察では、研究の平均と、自分の症状・手術リスク・生活条件を分けて確認します。
適応は、年齢・ヤール度数・罹病年数だけでは決まらない
2026年の専門家合意では、DBSの適応を運動スコア、ヤール度数、年齢、病気の年数のいずれか一つだけで決めないことが示されています。診断の確かさ、症状と薬への反応、認知・精神面、全身状態、本人の目標などを合わせて判断します。[2]
- 診断:パーキンソン病として、症状や経過が説明できるか。MSA・PSPなど、別のパーキンソン症候群も検討する。
- 症状と薬:オフやジスキネジア、ふるえが生活をどの程度妨げ、どのような薬の調整を行ってきたか。
- 認知・精神面:理解・判断・記憶、気分、幻覚などを詳しく評価し、手術後の変化と管理への影響を考える。
- 全身状態:持病、出血や感染のリスク、服薬状況などを確認する。
- 生活と支援:通院、機器操作、必要な充電、困ったときの連絡をどう続けるかを考える。
認知・精神症状の評価は、簡単な検査の点数一つで終えるものではありません。認知症などで理解・判断や日常生活への影響が大きい場合は、DBSが適さないことがあります。強い精神症状がある場合には、治療や支援を先に整える必要があります。適応は、担当チームがリスクと見込める利益を比較して判断します。[2][6][7]
MSAやPSPなどの非典型パーキンソン症候群では、パーキンソン病と同じ効果は確立していません。病名がまだ確定していない場合には、診断の見直しも重要になります。[2]
薬の調整を続けても生活の支障が残るなら、専門施設への相談時期を聞けます。
「もっと進行してから」と自分だけで判断せず、オフやジスキネジアの負担を主治医へ伝え、DBSを含む治療の適応評価が役立つ段階かを相談しましょう。[2]
診断の全体像は、パーキンソン病の検査・診断の進め方で整理しています。
STNとGPiの違い|何を優先するかを主治医と考える
パーキンソン病のDBSでは、主に視床下核(STN)や淡蒼球内節(GPi)が刺激部位になります。どちらも運動症状への効果が示されており、治療目標や症状に応じて選びます。[3][5]
| 刺激部位 | 選択を考える際の特徴 | 聞いておきたいこと |
|---|---|---|
| STN 視床下核 | 運動症状の改善に加え、薬を減らすことを重視する場合に検討される。 | 薬を減らす必要性、減量に伴う変化、認知・気分・話し方などへの影響。 |
| GPi 淡蒼球内節 | 運動症状やジスキネジアの改善を目指す。薬を大きく減らさず、オン時のジスキネジアを抑えたい場合などに検討される。 | ジスキネジアと薬の両方を、どのように調整するか。 |
認知や気分への影響も、刺激部位を選ぶ際の検討事項です。ただし、ある部位なら全員に安全、別の部位なら必ず悪化するという分け方はできません。「なぜ自分にはこの部位を勧めるのか」を、期待する効果とリスクの両面から説明してもらいましょう。[2][5]
手術前の評価から、術後の調整・通院まで
DBSでは、電極を植え込む手術と、その後の刺激・薬の調整が一続きの治療になります。評価は、脳神経内科、脳神経外科、認知・心理面の評価を担う専門職などが協力して行います。[2][6]
| 段階 | 主な内容 | 本人・家族が準備すること |
|---|---|---|
| 適応評価 | 診断、オン・オフ、薬への反応、認知・精神面、画像、全身状態などを確認する。 | 服薬一覧、症状の記録、改善したい動作、生活上の支障をまとめる。 |
| 手術の説明・計画 | 刺激部位、機器、手術方法、リスク、入院と術後管理を相談する。 | 通院手段、費用、退院後の支援、機器の扱いについて質問する。 |
| 電極・刺激装置の植込み | 画像などを用いて電極の位置を決め、刺激発生装置と接続する。 | 薬、絶食、持病などについて、病院からの個別の指示を確認する。 |
| 刺激と薬の調整・長期管理 | 症状と副作用を見ながら設定・薬を調整し、機器の状態を確認する。 | 通院と記録、必要な充電、緊急時の連絡方法を生活に組み込む。 |
オン・オフの評価は、医療機関の指示で行う
評価では、薬が効いている状態と効いていない状態の比較や、MDS-UPDRSなどの尺度が使われることがあります。検査のための服薬調整は、医療機関が手順を決めます。比較しようとして自分で薬を抜いたり、量を変えたりしないでください。
評価尺度については、MDS-UPDRSの点数・服薬条件・ヤール分類との違いで解説しています。
手術後も、何回かの調整が必要になる
刺激の調整は複数回の受診で行われ、落ち着くまで数か月かかる場合もあります。動きやすさに加え、ジスキネジア、話し方、バランス、気分、睡眠などの変化を伝えます。手術直後の状態だけで、最終的な効果を決めないことが大切です。[6][7]
機器には充電式と非充電式があり、充電の手間や電池交換の見通しが異なります。どのくらいの頻度で何を行うかは、実際の機種と設定で確認します。本人の操作のしやすさ、支援を受けられる方法も選択に関わります。[1]
術後も、必要に応じて運動や生活動作の練習を組み合わせます。パーキンソン病の運動療法・リハビリもご参照ください。
手術・刺激・機器に関わるリスクを分けて確認する
手術に伴うリスク
脳内出血や脳卒中、感染など、重い合併症が起こる可能性があります。持病や薬、全身状態によってもリスクが異なるため、担当施設で自分の条件に沿った説明を受けます。[4][6]
刺激や術後の変化
話しにくさ、バランスの変化、認知・気分の変化などが問題になる場合があります。刺激条件の調整で軽減できることもありますが、薬や病状などを含めた評価が必要です。気になる変化は、時刻と設定・服薬との関係を記録して伝えます。[2][5][6]
機器に関わる問題と、連絡先
電池切れ、リードや接続の問題、機器の感染などで、治療の継続に支障が出ることがあります。急に動きにくくなった、機器の警告が出た、創部が赤い・腫れた・液が出るなどの変化は、管理施設へ連絡してください。[2][8]
緊急時の連絡方法を、退院前に確認します。
突然の激しい頭痛、新たな片側の麻痺やろれつの回りにくさ、意識の異常などは119番へ連絡してください。DBSの有無と、手術を受けた時期を伝えます。[10]
MRI・ほかの治療や施術を受ける前に、DBSの情報を共有する
DBSの植込み後は、検査や処置を予約する段階で、機器があることを伝えます。患者手帳・機器カード、管理施設の連絡先を用意しておくと、必要な確認につながります。
MRIは、機器と撮像条件を確認して判断する
条件を満たすとMRIを受けられるDBSシステムがあります。ただし、「MRI対応」という言葉だけで、どの検査も受けられると判断することはできません。機種、電極などの構成、機器の状態、撮像条件、必要な設定を、DBS管理医と検査部門が、実際の機器の手順に沿って確認します。[9]
電気・磁気を使う機器や、深部温熱療法にも注意する
DBSは、外部の電気・磁気の影響や、ほかの医療機器との組み合わせに注意が必要です。電気・磁気を使う治療や施術を予定している場合は、使用機器・部位・方法を伝え、管理施設とメーカーへの確認が済むまで受けないでください。[8]
ジアテルミーと呼ばれる短波・マイクロ波・治療用超音波による深部温熱療法は、DBSで禁忌とされる処置です。装置の電源を切れば受けてよい、と自己判断しないでください。検査用超音波などは、検査内容と機種の条件を別に確認します。[8]
機器の操作は、担当チームから説明された範囲と手順に従います。検査や施術を受けるために、自分で設定や電源を変更しないでください。実際の使用条件は、植え込まれている機器に対応する最新の国内の添付文書・手順で確認します。
準備する情報は、入院・検査前の薬・DBS・引き継ぎメモにまとめています。
適応評価で使える相談メモ
「手術で何を変えたいか」を先に決めると、期待と負担を比べやすくなります。できる範囲で、過去の治療と生活の記録を持参しましょう。
日内変動の記録には、診察・服薬・症状のメモも使えます。
よくある質問
DBSを受けると、薬は飲まなくてよくなりますか?
多くの方で薬は続きます。薬を減らせる場合はありますが、刺激部位や症状によって異なります。刺激と薬を合わせて調整し、動きやすさと副作用の両方を確認します。
何歳までなら受けられますか?
年齢だけで一律には判断しません。全身状態、認知・精神面、症状、見込める利益、通院や管理の条件などを合わせて、専門施設で評価します。実際の機器の使用条件や施設の方針も確認します。
すくみ足や転倒も改善しますか?
オフに伴い薬で改善する部分では、効果が期待できる場合があります。一方、オンでも強く残るすくみ足やバランスの問題は、効果が限られやすく、刺激による変化も確認が必要です。どの場面の症状かを伝えます。
物忘れや気分の変化があると、相談できませんか?
まず、その内容と程度を伝えてください。詳しい認知・精神面の評価を行い、術後の変化、同意や機器管理への影響、先に必要な治療を検討します。簡単な点数一つで自己判断する必要はありません。
DBSが入るとMRIは受けられませんか?
条件を満たせば受けられる機器があります。機種と構成、状態、撮像条件の確認が必要なので、予約時にDBSの存在を伝え、患者手帳・機器カードを示して管理医と検査部門へ相談します。
いつ、DBSについて相談するとよいですか?
薬の調整を続けてもオフやジスキネジア、ふるえが生活を妨げるときは、専門施設の評価が役立つ段階かを主治医に聞けます。何を改善したいかと、薬が効くときの変化をメモしておくと相談が具体的になります。
動ける時間を、続けたい生活につなげるために
DBSは、適応のある方で、オフやジスキネジア、ふるえなどの負担を減らし、生活の質を改善する選択肢です。効果を考えるときは、「着替えを落ち着いて済ませたい」「食事で手を使いやすくしたい」「予定を立てて外出したい」といった、本人に意味のある目標を共有します。
その目標に対して、DBSで見込める変化、残る課題、手術と通院・機器管理の負担を並べると、自分に合う治療を選びやすくなります。まずは一番困っている症状と日内変動をまとめ、主治医に専門施設での適応評価を相談してみてください。
参考文献・一次資料
- 日本定位・機能神経外科学会.脳深部刺激療法(DBS).仕組み、機器、手術の流れとリスク。
- Safarpour D, et al. Consensus expert recommendations for referral of Parkinson’s disease patients for deep brain stimulation surgery. npj Parkinsons Dis. 2026;12:30. doi:10.1038/s41531-025-01241-3.
- Deuschl G, et al. European Academy of Neurology/Movement Disorder Society–European Section guideline on the treatment of Parkinson’s disease: I. Invasive therapies. Eur J Neurol. 2022;29(9):2580–2595. doi:10.1111/ene.15386.
- Weaver FM, et al. Bilateral deep brain stimulation vs best medical therapy for patients with advanced Parkinson disease: a randomized controlled trial. JAMA. 2009;301(1):63–73. doi:10.1001/jama.2008.929.
- Rughani A, et al. STN-DBSとGPi-DBSを比較したCongress of Neurological Surgeons診療指針・要約版.Neurosurgery. 2018;82(6):753–756. doi:10.1093/neuros/nyy037.
- International Parkinson and Movement Disorder Society. Deep Brain Stimulation for Parkinson’s Disease: Essential Facts for Patients.2018年更新。適応評価、術後調整、長期の位置づけ。
- National Institute of Neurological Disorders and Stroke. Deep Brain Stimulation for Movement Disorders(PDF).仕組み、薬との併用、治療の限界。
- Medtronic. Parkinson’s Disease – Deep Brain Stimulation Therapy: safety information.機器の安全情報、電磁干渉、ジアテルミーなどの禁忌・注意。
- Medtronic. MRI Information – Deep Brain Stimulation Therapy.条件付きMRIと、機器・撮像条件の確認。
- 厚生労働省.こんな時は迷わず119へ.急な麻痺、言語や意識の異常などの緊急症状。
本ページは一般的な医療情報です。DBSの適応、刺激部位、機器、服薬や設定変更は、個別の状態と実際の機器の使用条件を踏まえて担当の専門チームと相談してください。

