MIBG心筋シンチ・H/M比・検査前の準備
心臓を調べる検査が、パーキンソン病の診断に役立つ理由
「脳の病気なのに、なぜ心臓の検査をするのか」「H/M比が低いと、何が分かるのか」。MIBG心筋シンチを勧められると、検査の目的や結果の意味が気になると思います。
調べるのは、心臓に分布する交感神経への薬の集まり方です。診察やほかの検査と合わせることで、似た症状を起こす病気を区別する手がかりになります。
結果の説明では、次の3点を聞いてください。
- 心臓への集積は、正常・低下・判断が難しい状態のどれですか。
- H/M比は、この施設の撮影・解析条件ではどう評価されますか。
- 診察所見と合わせると、今回の結果で診断や次の方針はどう変わりますか。
H/M比の数字だけを見て、病名・進行度・将来の生活を一度に判断する必要はありません。
MIBG心筋シンチは、心臓の交感神経を調べる検査
MIBGは、神経の情報伝達に関わるノルアドレナリンに似た性質を持つ物質です。放射性ヨウ素の一種で標識した薬を注射し、心臓への集積を撮影します。正式には「123I-MIBG心筋シンチグラフィ」などと呼ばれます。[3]
パーキンソン病では、脳のドパミン神経に加え、心臓に分布する交感神経にも変化が起こることがあります。そのため、心臓へのMIBG集積が低下する所見が診断の手がかりになります。心筋の血流を調べる検査とは、主な目的が異なります。[3]
心臓のポンプ機能とは、別の情報を見ています。
交感神経への集積と、心臓が血液を送り出す力は別の評価です。心臓の病気が結果に影響することもあるため、持病を含めて説明を受けます。
診断を支える材料として使う
パーキンソン病は、動作緩慢、ふるえ、筋強剛、症状の経過、薬への反応などを組み合わせて診断します。国際的に用いられるMDS臨床診断基準では、MIBGによる心臓交感神経の障害所見が診断を支持する項目に含まれています。[1][2]
例えば、パーキンソン病と多系統萎縮症(MSA)などの区別を検討する場面で役立ちます。一方、検査だけで病名が確定するわけではなく、全員に必須の検査でもありません。[1][3]
検査を勧められたときは、「何の病気との区別を考えているのか」「結果によって次の診療がどう変わるのか」を聞くと、受ける目的が分かりやすくなります。
H/M比・正常値・洗い出し率の読み方
H/M比は、心臓と縦隔の集積を比べた数字
Hはheart(心臓)、Mはmediastinum(縦隔)です。画像上で設定した心臓の領域の平均カウント(検出された放射線の数)を、胸の中央にある縦隔の領域の平均カウントで割って求めます。心臓への相対的な集積を、画像に加えて数値で評価する指標です。[5][6]
H/M比は、脳のドパミン量や、残っている神経の割合を直接示す数字ではありません。「1.5だから神経が半分」「前回より低いから、その分だけ歩けなくなる」とは読みません。
早期像と後期像は、撮る時刻が違う
注射後の早い時刻に撮るものを早期像、時間をおいて撮るものを後期像と呼びます。結果用紙では「早期H/M比」「後期H/M比」が分かれていることがあります。同じ時相どうし、同じ解析条件かを確かめて比較します。[4][5]
「正常値は2.2以上」という説明を見たとき
日本神経学会の2018年ガイドラインの図には、標準化後の後期像でH/M比2.2以上を正常とする例が示されています。ただし、この数字を、あらゆる施設の補正前の値や早期像へそのまま当てはめることはできません。[3]
カメラ、コリメーターという装置部品、画像上の領域の取り方などで測定値は変わります。国内84施設で行われた標準化研究も、この施設間の差を調整することを目的としています。自分の結果には、その施設の基準と標準化の有無を用います。[5]
洗い出し率(WR)が書かれている場合
早期から後期にかけて、集積したMIBGがどの程度減るかを見る指標です。放射能の時間による減衰や背景の補正など、計算方法も値に影響します。H/M比と同様に、他施設の数字だけを並べて自己判定せず、画像と解析条件を合わせて説明を受けます。[9]
集積低下・正常・判断が難しいときに確認すること
| 結果の説明 | 意味の捉え方 | 次に聞くこと |
|---|---|---|
| 心臓への集積が低下 | 診察所見と合えば、パーキンソン病などのレビー小体病を支持する材料になります。 | 薬・心疾患・神経障害の影響も考慮されていますか。 |
| 集積が正常範囲 | パーキンソン病でも正常のことがあり、これだけでは否定できません。 | 発症時期や症状の特徴と合わせて、どう判断しますか。 |
| 境界・判定が難しい | 画像、測定条件、持病、薬を合わせた評価が必要です。 | 判断を保留する点と、次に確認する所見は何ですか。 |
| 診察や他の検査と合わない | どれか一つを採用して決めず、結果の解釈と臨床経過を見直します。 | 追加評価と経過観察のどちらが必要ですか。 |
発症早期、とくに振戦が目立つタイプや、一部の家族性パーキンソン病では、集積が正常に保たれることがあります。また、レビー小体型認知症でも低下し得るため、低下したという情報だけで認知症の有無まで決まるわけではありません。[3][4]
2019年の小規模な臨床研究では、28人中9人でMIBGによる分類と当初の臨床像が一致しませんでした。これは一般的な「誤診率」を示す数字ではありませんが、実際の診療で、画像を症状・薬・持病と照合する必要性を示しています。[6]
DATスキャン・MRIとは、調べる対象が違う
| 検査 | 主に調べるもの | 結果を読む際のポイント |
|---|---|---|
| MIBG心筋シンチ | 心臓の交感神経への集積。 | 低下はPDの支持所見。正常でもPDを除外しません。 |
| DATスキャン | 脳の線条体にあるドパミントランスポーターへの集積。 | 異常はPD以外でもみられます。シナプス前ドパミン機能画像の正常所見は、MDS基準ではPDの除外項目です。 |
| MRI | 脳の構造や、別の病気を示す所見。 | 一般的なMRIが正常でもPDはあり得ます。 |
「MIBGが正常」と「DATが正常」は、診断基準上の扱いが同じではありません。また、DATが異常でも、それだけでPDとMSAなどを確実に区別することはできません。[1][3]
検査全体の順序はパーキンソン病の検査と診断、DATの結果用紙についてはDATスキャンの結果・SBR・正常値で詳しく扱っています。
薬や持病が、集積の見え方に影響することがある
- 薬:一部の抗うつ薬や血圧の薬など。国内添付文書には、レセルピン、三環系抗うつ薬、ラベタロールによる集積抑制の報告が記載されています。[4]
- 持病:心不全・虚血性心疾患などの心臓の病気、糖尿病に伴う自律神経障害や末梢神経障害など。病名があるだけで検査が無意味になるのではなく、状態を踏まえて評価します。[6]
- 測定条件:撮影装置、撮る時刻、画像上で心臓と縦隔を囲む領域の設定、補正方法など。[5][9]
結果への影響を心配して、自分で薬を中止しないでください。お薬手帳に加え、市販薬・頓服・サプリも伝え、継続する薬と調整する薬を処方医・検査施設に確認します。[7][8]
検査の流れ:撮影の間に数時間の待ち時間がある
国内添付文書では、PDなどの診断に用いる場合、通常は注射から15〜30分後と3〜4時間後に撮影します。後期像を省略するかどうかは、早期像、本人の状態、検査の利益と負担を考えて医師が判断します。[4]
- 受付・事前確認:薬、持病、過去の検査での反応、妊娠・授乳などを確認します。
- 注射:検査用の放射性医薬品を静脈に注射します。
- 早期の撮影:ベッドで横になり、体を大きく動かさずに撮影します。
- 待機・後期の撮影:指定時刻に戻って撮影し、終了後の案内を受けます。
待ち時間を含めて半日程度の予定を見込む施設があります。例えば国立病院機構福岡病院の案内は約5時間ですが、撮影時間や待機中の外出・食事の扱いは施設で異なります。予約時に確認してください。[7]
薬が切れると動けない、仰向けがつらい、頻尿・失禁がある、移乗に介助が必要という場合は、予約前に相談します。待ち時間の薬・食事・移動を組み立てておくと、当日の困りごとを伝えやすくなります。
当日の準備は、食事・薬・動作を一緒に考える
- 薬の指示:朝の薬、待ち時間の薬、休薬が必要とされた薬を、時刻も含めて確認する。
- 食事:食事制限なしとする施設もあります。他の検査を同日に受ける場合も含め、予約票を優先する。[7][8]
- 水分・排尿:検査施設の案内に従う。心不全などで水分制限がある方は、量を自己判断で増やさず相談する。
- 姿勢・動作:横になれる時間、起き上がり・立ち上がり・トイレの介助、転倒しやすさを伝える。
- 持ち物:お薬手帳、予約票、必要な薬、普段使う補助具、結果説明で聞きたいメモ。
ヨウ素剤などの事前投薬を指示された場合は、施設の指示どおりに使用します。飲み忘れや、ヨウ素・薬剤への過敏症の既往がある場合も事前に連絡してください。[4]
被ばくと、妊娠・授乳・副作用の相談
放射性医薬品を使うため、放射線被ばくがあります。検査で得られる情報の利益と負担を比べ、必要性を判断して行います。「被ばくがない検査」ではありません。[7]
妊娠中・妊娠の可能性・授乳中であること、過去の薬剤やヨウ素への過敏症は、予約時に伝えてください。授乳の扱いを含め、本人の条件に応じた指示を受けます。[4]
薬剤による副作用として、悪心や血圧低下などに加え、ショック・アナフィラキシーも添付文書に記載されています。注射後や撮影中に息苦しさ、強い気分不良、ふらつきなどがあれば、すぐ職員へ知らせます。[4]
検査後の過ごし方、排尿、授乳などの注意は施設で確認し、渡された説明書を持ち帰ってください。
コピーして使える検査・結果説明のメモ
「数値がいくつだったか」に加え、検査で何を確かめ、次に何をするかまで書き残すと、次の診察で話をつなげやすくなります。
【MIBG検査・結果説明のメモ】 検査日/結果説明日: 検査の目的・区別したい病気: 心臓の病気・糖尿病・神経障害など: 検査前に確認した薬と、当日の服薬時刻: 早期H/M比: 後期H/M比: 施設の基準/標準化・補正の有無: 画像の説明(正常・低下・判断が難しい等): 薬や持病の影響についての説明: 診察・DAT・MRIなどと合わせた医師の判断: 次に行うこと/次回受診の時期: 生活で困っている症状と、相談したい対策:
検査前にとくに聞いておきたいのは、服薬と食事の指示、必要な介助、終了までの見込み時間です。結果説明では、診断を支持した点、まだ決められない点、次の方針を分けて聞いてください。
よくある質問
MIBGが正常なら、パーキンソン病ではないのですか?
H/M比が低いほど、重症という意味ですか?
数字だけで運動症状の重さや進行度は決められません。心臓の交感神経への集積と、歩行・転倒・介助の必要性は別に評価します。日々困っている動作も主治医へ伝えてください。[3]
検査を受けないと診断できませんか?
全員に必須ではありません。診断の中心は症状と神経学的診察です。検査で確かめたい疑問があり、その情報が診療に役立つかを考えて選びます。[1]
痛みはありますか。何時間も横になっていますか?
薬をやめたり、食事を抜いたりする必要がありますか?
費用はいくらかかりますか?
国内では、パーキンソン病の診断に用いる効能が承認されています。本人の負担額は、保険の負担割合、公費助成、同日に受ける診療や検査などで変わります。予約施設に、今回の検査の適用と概算を確認してください。[4]
検査結果を、次の診療で役立つ情報へ
MIBG心筋シンチの意義は、病名に丸やばつをつけることだけではありません。診察だけでは判断しにくい点を補い、どの原因を考え、次に何を確かめるかを相談する材料になります。
施設の基準、薬や持病の影響、症状との関係まで説明を受ければ、数値だけで不安を膨らませず、必要な追加評価や経過観察を整理できます。検査前には薬と当日の動作を準備し、結果説明の場では、いまの生活で困る症状への対策も一緒に相談していきましょう。
参考文献・公的資料
- International Parkinson and Movement Disorder Society. Diagnosis of Parkinson’s Disease. 2023年3月1日声明。
- Postuma RB, et al. MDS clinical diagnostic criteria for Parkinson’s disease. Mov Disord. 2015;30(12):1591–1601. PubMed。
- 日本神経学会監修. パーキンソン病診療ガイドライン2018. 第Ⅲ編第1章、Q and A 1-2-2・1-2-3. MIBG・DATの診断上の役割。
- PMDA. ミオMIBG-I123注射液 電子添文. 2023年12月改訂第3版. 効能・撮像時刻・診断上の注意・安全性。
- Nakajima K, et al. Multicenter cross-calibration of I-123 metaiodobenzylguanidine heart-to-mediastinum ratios to overcome camera-collimator variations. J Nucl Cardiol. 2014;21(5):970–978. doi:10.1007/s12350-014-9916-2. H/M比の多施設標準化研究。
- Skowronek C, Zange L, Lipp A. Cardiac 123I-MIBG Scintigraphy in Neurodegenerative Parkinson Syndromes: Performance and Pitfalls in Clinical Practice. Front Neurol. 2019;10:152. doi:10.3389/fneur.2019.00152. 臨床例での結果の不一致と解釈上の注意。
- 国立病院機構福岡病院. 心筋安静(MIBG)シンチグラフィ検査をお受けになる患者様へ。施設ごとの案内の一例。
- 国立病院機構さいがた医療センター. RI検査のご案内と注意事項:心筋交感神経シンチグラフィ。施設ごとの案内の一例。
- 長谷川大輔ほか. 123I-MIBG心筋シンチグラフィにおける心縦隔比と洗い出し率の解析方法と再現性の検討. 日本放射線技術学会雑誌. 2014;70(12):1420–1428. 解析法と再現性の研究。
検査前の食事・服薬・授乳などについては、受ける施設から渡された最新の指示を確認してください。

