CMTにおける「痛み」の正体|足部変形と過負荷が生む負の連鎖を解く
CMT(シャルコー・マリー・トゥース病)では、しびれや筋力低下といった主症状に加え、足の痛み、足裏の激しい疲労感、足首の不安定さが生活の質を大きく左右します。 これらの痛みは、単なる神経の不具合だけではなく、筋力バランスの崩れから生じる「足部変形」と、それに伴う「荷重の偏り」が主原因となっているケースが少なくありません。 本ページでは、なぜCMTで痛みが起きるのか、その構造的な背景を整理し、身体への負担を軽減するための論理的なアプローチを提示します。
結論:構造的ストレスと神経症状の融合
- CMTの痛みは、末梢神経障害そのものによる痛み以上に、足部変形(凹足:pes cavus 等)によって引き起こされる「物理的な過負荷」が大きく関与しています。
- 筋力のアンバランスが関節を一定方向に引っ張り続けることで、足のアーチが高くなり、荷重面が極端に狭くなることで特定の部位に圧力が集中します。
- 実務的な対策としては、痛い場所を直接刺激することよりも、靴、足底板(インソール)、装具によって「接地面積を最大化」し、荷重を分散させることが最優先となります。
CMTで痛みが多発する医学的背景
CMTでは、足首を持ち上げる筋群(前脛骨筋など)と、足首を下げる筋群、あるいは足を内側・外側に傾ける筋群の間で、筋力の低下速度に差が生じます。 この「不均衡(Imbalance)」が長期間続くことで、足の骨格は強い力を持つ筋群の方へと徐々に引き寄せられ、変形が固定化していきます。
このようにして形が変わった足は、本来のクッション機能を失い、一歩歩くごとに骨や腱へ過剰なストレスを与え続けます。これが慢性的な痛みの根本的なメカニズムです。
足部変形と足底圧分布の変化
CMTでよく見られる「凹足(pes cavus)」や「内反凹足(cavovarus)」では、足の中央部(土踏まず)が地面から浮き上がり、荷重が「踵(かかと)」と「前足部(指の付け根)」の2点に集中します。
荷重面積が半分以下に減少すれば、理論上、単位面積あたりにかかる圧力は2倍以上に跳ね上がります。この物理的な過負荷が、皮膚の胼胝(タコ)や、骨膜の炎症、腱鞘炎などを引き起こします。
| 変形の特徴 | 生じやすい構造的リスク |
|---|---|
| ハイアーチ(凹足) | 衝撃吸収能力が低下し、歩行時の衝撃が直接膝や腰まで伝わりやすくなる。 |
| 踵の内反(内反足) | 足の外側に体重が乗り、足首を外側にひねりやすくなる(慢性捻挫のリスク)。 |
| クロウトゥ(鉤爪趾) | 指の背が靴に当たりやすくなり、潰瘍や強い局所痛を招く。 |
過負荷が集中しやすい「5つのポイント」
足の変形によって、特に負荷が集まりやすく、痛みが出やすい場所は決まっています。
- 中足骨頭(指の付け根)の裏側: 荷重が集中し、最も胼胝ができやすい。
- 足の外側縁(第5中足骨付近): 外側荷重によって持続的な圧迫を受ける。
- 足首の外側: 外側へのグラつきを支えるために、腓骨筋腱などに過度な張力がかかる。
- 足底筋膜: アーチが高い状態で引き伸ばされ、炎症(足底筋膜炎様症状)を起こしやすい。
- 下腿後面の筋肉(ふくらはぎ): 不安定な足を支えるために、常に過緊張状態になり、痛みを伴う「張り」を生む。
痛みの種類:神経障害性 vs 筋骨格系
CMTの痛みは、性質によって管理アプローチが異なります。
神経そのもののダメージによるもの。ビリビリ、チクチク、焼けるような感覚。安静時や夜間に強く感じることがあります。
変形や過負荷によるもの。歩行時や起立時に強くなり、靴の適合によって大きく変化します。ズキズキとした重い痛み。
「活動量に比例して痛みが強くなる」場合は、筋骨格系(構造的)な問題が主である可能性が高く、物理的な環境調整(靴や装具)が極めて有効です。
管理のために見直したい「足元の環境」
痛みの原因が「過負荷」である以上、その負荷をいかに分散させるかがカギとなります。
| 見直しの観点 | 具体的な改善の方向性 |
|---|---|
| 靴の適合性 | ハイアーチに対応できる甲の高さ、踵をしっかりホールドする堅牢なヒールカウンター、指先を圧迫しない広めのトゥボックス。 |
| カスタム足底板 | 浮いている土踏まずを埋め、接地面積を増やすことで、前足部と踵に集中する圧力を分散する。 |
| 下肢装具(AFO) | 足首の左右へのグラつきを物理的に制限し、無駄な筋活動と代償動作による疲労を軽減する。 |
よくある質問
マッサージで痛みは解消しますか?
一時的に筋肉の緊張が和らぎ、血流が改善することで緩和されることがありますが、変形や荷重の偏りという根本原因(物理的な要因)が残っている限り、歩行を開始すればすぐに痛みは再発します。根本的な対策としては、靴や装具による環境調整が不可欠です。
足底板(インソール)を作る際のポイントは?
「土踏まずを支える」だけでなく、「踵の傾きを垂直に補正する(内反の抑制)」機能を持たせることがCMTでは重要です。CMTの足部評価に精通した専門家によるフィッティングを推奨します。
痛みがあっても歩いたほうがいいですか?
「痛みを堪えて歩く」ことは、代償動作を強め、膝や腰など他の関節まで痛める原因になります。痛みが出る前に活動を止める「エネルギー温存」を意識し、適切な装具等で「痛くない状態で歩ける環境」を整えることが先決です。
免責事項
- 本ページは一般的な情報提供を目的としており、特定の装具処方や診断を行うものではありません。
- 痛みの原因は複合的であり、個々の進行度や病型により最適なアプローチは異なります。
- 強い痛み、急激な変形の進行、足の傷が治りにくいなどの症状がある場合は、専門医や義肢装具士にご相談ください。
参考文献
- Acquired Pes Cavus in Charcot-Marie-Tooth Disease: Mechanism and Management. (2015)
- Plantar Pressure Distribution Patterns in Charcot-Marie-Tooth Disease. (2025 Systematic Review)
- Cochrane Library: Interventions for the prevention and treatment of pes cavus.
- Journal of Foot and Ankle Research: Effects of custom foot orthoses on pain and mobility in CMT.
まとめ
CMTの痛みは、あなたの努力不足ではなく、身体の構造的な変化(筋バランスの不均衡と荷重の集中)が引き起こす必然的な結果である側面が強いです。
神経の痛みと、構造の痛み。これらを論理的に切り分け、まずは靴や装具といった「外部環境」から整えていくことで、過負荷による悪循環を断ち切ることが可能になります。
足元の土台を安定させ、一歩一歩の衝撃を分散させる。この実務的なアプローチが、長期的な歩行の自由と快適さを守るための鍵となります。

