運動療法・リハビリ・自宅での続け方
歩く、立つ、出かける。続けたい動作から運動を組み立てる
パーキンソン病の運動療法には、体力、筋力、歩行、バランスなどの改善を目指せる根拠があります。大切なのは、自分が困っている動作に合う練習を選び、続けられる形にすることです。
このページでは、研究で分かっている効果、有酸素運動や筋力トレーニングの役割、運動量の目安、薬のオン・オフへの合わせ方を整理します。自宅での計画と、主治医・理学療法士への相談に使えるメモも掲載しています。
運動療法で期待できること
パーキンソン病(PD)のリハビリでは、薬による治療と合わせて、動作や生活に直接働きかけます。米国理学療法士協会の診療ガイドラインは、有酸素運動、筋力トレーニング、バランス、歩行、外的な合図を使う練習、生活上の課題に沿った練習などを推奨しています。[1]
- 歩行や外出を支える体力をつける。
- 立ち上がりや姿勢保持に使う筋力を高める。
- 歩幅、方向転換、バランスなど、困る動作を練習する。
- 続けたい活動に合わせて、動作や環境を工夫する。
どの変化が得られるかは、症状、持病、運動の内容や継続状況で異なります。運動後の達成感に加え、「椅子から立つのが楽になった」「安心して外へ出られる」といった生活での変化を目標にします。
疲労の配分を詳しく知りたい方へ
運動後や翌日のだるさ、家事・外出との配分は、運動で疲れすぎないための考え方で扱っています。このページは、運動の効果と組み合わせ方を中心に説明します。
代表的な研究から分かること
研究結果を見るときは、参加者の状態、比較した運動、実施期間、評価した内容を一緒に見ます。同じ「運動」でも、体力の改善、診察での運動症状、転倒回数は別の結果です。
| 研究 | 対象・方法 | 結果と受け止め方 |
|---|---|---|
| Park-in-Shape 2019年・130人 | ヤールⅡ度以下の人を対象に、在宅の固定式自転車とストレッチ等を6か月比較。遠隔支援を含む。 | オフ時の運動症状の評価で、有酸素運動群に有利な群間差。重症の人や、支援なしの自己流運動にも同じ効果が出るとは限らない。[4] |
| 太極拳の試験 2012年・195人 | 立位・歩行が可能な人を対象に、太極拳、筋力運動、ストレッチを24週間比較。 | 太極拳群で姿勢制御などが改善。転倒発生はストレッチ群より少なかったが、筋力運動群との差は有意ではなかった。[5] |
| PDSAFE 2019年・474人 | 転倒リスクのある人に、個別化した在宅の転倒回避・バランス・筋力プログラムを実施。 | バランスや椅子からの立ち上がりは改善したが、全体では反復転倒を減らせなかった。病状やすくみ足などによって対応を変える必要がある。[6] |
Park-in-Shapeでは、診察で運動症状を評価するMDS-UPDRSの運動スコアに、6か月時点で4.2点の群間差がありました。これは、全員が4.2点改善したという意味ではありません。[4]
こうした症状や動作の改善は、運動を治療に取り入れる理由になります。一方、紹介した試験の点数差だけから、神経細胞の再生や病気の進行停止を結論づけることはできません。
運動の種類と、目指す変化を合わせる
体力をつける運動と、すくみ足や方向転換を練習するリハビリは、目的が異なります。散歩だけ、筋トレだけに偏らず、必要な要素を組み合わせます。[1]
| 種類 | 主な目的・例 | 選ぶときの確認点 |
|---|---|---|
| 有酸素運動 | 持久力や全身の活動を支える。歩行、固定式自転車など。 | 止まれるか、乗り降りできるか、血圧や心肺の持病に問題がないか。 |
| 筋力トレーニング | 脚・体幹・上肢の力を高める。自重、マシン、バンドなど。 | 姿勢と動作の質を保てる負荷か。痛みや不随意運動に合わせて選べるか。 |
| バランス練習 | 重心移動、踏み出し、姿勢制御を練習する。 | 手すりや介助が必要か。難しい姿勢を一人で試さない。 |
| 歩行・合図を使う練習 | 歩幅、歩き出し、方向転換を練習。目印・リズム・声かけを利用する場合もある。 | 合図の種類や速さが本人に合うか。すくみや焦りが増えないか。 |
| 柔軟性・関節運動 | 動かせる範囲を保ち、運動や生活動作を行いやすくする。 | 痛み、骨粗鬆症、関節や脊椎の問題に合わせて範囲を調整する。 |
| 生活動作の練習 | 椅子から立つ、寝返る、服を着る、物を扱うなど。 | 本人の椅子・ベッド・家の環境で再現できる方法か。 |
柔軟性の運動にも役割がありますが、ストレッチだけで有酸素運動や筋力、歩行練習の目的をすべて満たすわけではありません。また、動作緩慢やすくみ足を「筋力不足だけ」と考えず、薬や動作の組み立て方も評価します。
週150分、筋力運動週2〜3日という目安
Parkinson’s Foundationと米国スポーツ医学会(ACSM)は、2026年公表の推奨で、中等度〜高強度の運動を週150分行うこと、複数の運動領域を組み合わせることを示しています。体調や安全性を評価して目指す量であり、全員が初日から達成する開始量ではありません。[2]
| 領域 | 推奨に示された目安 | 本人に合わせる点 |
|---|---|---|
| 有酸素運動 | 週3日、1回30分以上の中等度〜高強度。 | 必要に応じて区切り、実施可能な量から段階的に調整する。 |
| 筋力運動 | 週2〜3日、連日を避けて行う。 | 使う筋群、重さ、回数、回復日を決める。 |
| 柔軟性 | 週2〜3日。毎日の実施も推奨。 | 痛みや持病を踏まえ、動かす範囲を決める。 |
| バランス・敏捷性・複数課題 | 週2〜3日。可能なら日常にも取り入れる。 | 支持物、見守り、認知面への負担を調整する。 |
週150分は、有酸素運動だけに別枠の150分を追加するという意味ではありません。各領域を組み合わせた運動を含めて考えます。同じ時間を二重に加算したり、負荷の異なる活動をすべて同じ運動として数えたりせず、内容と強さも確認します。
強さは、心拍数だけで決めない
専門職向けの指針では、0〜10の自覚的なきつさの尺度で、中等度は3〜4、強い運動は5〜7が目安として示されています。これは運動中のきつさであり、翌朝まで残る疲労の点数とは分けます。[3]
パーキンソン病の自律神経障害や服薬の影響で、心拍数の上がり方が変わることがあります。年齢から計算した心拍数を追いかけるより、医療者と決めた強度、血圧・症状、動作の安定性を合わせて見ます。
運動習慣が少ない方は、短く区切る、休憩を入れる、支えや見守りを使うなどして始めます。高強度の運動を希望する場合も、持病と現在の運動能力を評価してから段階的に進めます。
自分に合う運動計画を立てる5つの手順
- 生活の目標を一つ選ぶ。
買い物、椅子からの立ち上がり、着替えなど、本人が続けたいことを決めます。 - 難しい理由を評価する。
筋力、動作緩慢、バランス、すくみ、痛み、血圧、薬の効き方などを確認します。 - 必要な運動を選ぶ。
体力づくりに加え、目標の動作を直接練習する時間を設けます。 - 量・時間帯・支援を決める。
何を、いつ、どの程度、一人で行うかを具体化します。休憩や中止の目安も決めます。 - 生活での変化を見て調整する。
実施回数とともに、目標動作、転倒やヒヤリ、翌日の生活への影響を振り返ります。
| 現在の状態 | 相談する組み立て方 |
|---|---|
| 歩行が安定している | 有酸素・筋力・バランスを組み合わせ、続けたい外出や活動につながる目標を設定する。 |
| すくみや転倒がある | 歩行量を増やす前に、安全な運動方法、合図、補助具、見守りを評価する。固定式自転車も乗降を含めて選ぶ。 |
| 立つ・移る動作に介助が必要 | 座位やベッド上の運動、移乗、姿勢、介助方法などを個別に検討する。歩ける人のメニューをそのまま使わない。 |
ヤール分類は参考になりますが、同じ度数でも転倒、認知、血圧、持病は異なります。分類だけで運動を決めず、実際の動作を評価します。
1週間の配分例:種類を分けて続ける
次の表は、屋内歩行が安定し、実施内容を主治医・理学療法士等と確認した人の配分例です。各日の時間や強度は、本人の計画に置き換えてください。全員共通の運動処方ではありません。
| 曜日 | 主に置く運動 | 調整の視点 |
|---|---|---|
| 月 | 有酸素運動+関節を動かす運動。 | 動きやすい時間帯と、無理のない実施量を確かめる。 |
| 火 | 筋力運動+目標の生活動作。 | 立ち上がり等は、教わった椅子・支え・方法で練習する。 |
| 水 | 有酸素運動+個別のバランス練習。 | 疲れてから難しいバランス課題を追加しない。 |
| 木 | 回復日、または軽い関節運動。 | 家事や外出の負担も含めて調整する。 |
| 金 | 有酸素運動+筋力運動。 | 一度に詰め込まず、必要なら時間帯を分ける。 |
| 土 | バランス・生活動作、好きな運動。 | 教室や家族との活動を選ぶ場合も、安全な内容にする。 |
| 日 | 回復と、1週間の振り返り。 | できた日数に加え、生活で楽になった点・負担になった点を見る。 |
全種類を毎回まとめて行う必要はありません。初めは実施できる日と内容を決め、慣れてから時間・頻度・強さを調整します。通院や外出が多い週は、その負担も計画に入れます。
薬のオン・オフに合わせる
基本は、薬が効いて動きやすい「オン」の時間に、安全に運動できるよう計画します。ただし、オンでもジスキネジアが強い、ふらつく、立ちくらみがある場合は、時間帯や内容の見直しが必要です。[2]
- 服薬時刻と、運動を始めた時刻を記録する。
- オフが近づいて足が出にくくなる場合は、歩行練習を無理に続けない。
- 運動できる時間が極端に短い場合は、薬の効き方と生活記録を主治医へ伝える。
研究で「オフ時に評価した」と書かれていても、自宅で薬を抜いて運動するという意味ではありません。研究の評価条件と、普段の運動の実施条件を区別し、薬を自己調整しないでください。
薬が切れやすいときはウェアリング・オフの解説、記録には受診メモ・服薬日誌も使えます。
LSVT BIG、太極拳、ダンス、ボクシングをどう選ぶか
LSVT BIG:大きな動きと生活動作を練習する
LSVT BIGは、動きの振幅を大きくする練習を中心とするプログラムです。軽度〜中等度の60人を対象にした比較試験では、運動症状や歩行などに改善がみられました。一方、生活の質の指標には群間の有意差がありませんでした。[7]
この結果は、動画で大きな動きをまねるだけで同じ効果が出ることを示すものではありません。担当の専門職と、練習量、生活動作への応用、自宅課題、通う負担まで相談します。
太極拳・ダンス・接触のないボクシング
太極拳のような重心移動を含む運動、ダンス、地域の運動教室も選択肢です。ボクシングを取り入れたPD向けのプログラムには、対人打撃を行わず、動きや体力を練習するものがあります。[5][8]
名前の人気だけで選ばず、本人の目標に合うか、指導者が病状や転倒リスクを把握しているか、休憩や動作の変更ができるかを見ます。研究ごとに対象や練習量が異なるため、すべての人に最も優れた一つの運動を決めることはできません。
集団の中で合図を追うことが難しい方は、個別練習や少人数から検討できます。楽しさや通いやすさも、継続するための大切な条件です。
転倒・立ちくらみ・痛みがある場合の調整
運動は、負荷と安全性を両立させて進めます。すくみ足、転倒、血圧低下、心肺や関節の持病がある場合は、種目、支持物、介助、強度を先に評価します。[3]
- 転倒やすくみ:一人で後ろ向き歩行、片脚立ち、不安定な台などを試さず、担当者が選んだ課題を行います。
- 立ちくらみ:姿勢を変えたときの症状を伝え、運動方法と血圧への対応を相談します。
- 痛みや骨・関節の問題:無理に可動域や重さを増やさず、種目とフォームを調整します。
- 認知・注意の負担:会話しながら歩く等の二重課題は、安全に行えるかを評価して導入します。
バランスの検査が良くなっても、実際の転倒が必ず減るとは限りません。運動に加え、薬、血圧、住環境、補助具、介助も見直します。[6]
運動を中断して相談する変化
新しい痛み、強いふらつき、繰り返す転倒・ヒヤリ、翌日の生活を大きく妨げる疲労があれば、運動を中断して担当の医療者へ相談してください。
突然の強い胸痛、急な呼吸困難、意識の異常などは119の対象です。通常の運動量調整の相談と分け、救急対応を優先してください。[9]
具体的な環境調整は、姿勢反射障害と転倒予防、足が止まる場面への対応はすくみ足の解説も参照してください。
効果は、運動の量と生活動作の両方で見る
運動を続けた結果は、実施時間だけで判断しません。体力、筋力、歩行、バランス、本人が目標にした動作を、担当者と定期的に見直します。
- 目標の外出や生活動作を、以前より行いやすいか。
- 同じ活動をしたときの休憩や介助が変わったか。
- 転倒・ヒヤリや、運動後から翌日の負担が増えていないか。
- 薬の効き方、服薬からの時間、靴、補助具、測定環境が違っていないか。
理学療法では、歩行速度、立ち上がり、TUG、バランス検査などを目的に応じて使います。家庭では転びそうな動作を試験として再現せず、安全に観察できる生活場面を記録してください。
相談に使える運動計画メモ
主治医や理学療法士と、次の項目を具体化してください。すべてを一度に決める必要はありません。
【続けたい活動・楽にしたい動作】____ 【現在困っていること】歩行/立ち上がり/体力/すくみ/その他:__ 【服薬と運動時間】服薬:__時/動きやすい時間:__ 【選ぶ運動】有酸素:__/筋力:__/バランス・動作:__ 【量と強さ】週__日/1回__分・回/強度の目安:__ 【自宅での条件】場所・椅子・支持物・見守り:__ 【減らす・中止する目安】____ 【記録する変化】目標動作:__/転倒・ヒヤリ:__/翌日の生活:__ 【見直す日・相談先】____
「今の自分には、何を増やすと目標に近づきますか」「一人で行える練習と、見守りが必要な練習はどれですか」と聞くと、続け方を具体化しやすくなります。
よくある質問
散歩だけでもよいですか?
散歩は有酸素運動や外出の機会になります。ただし、筋力、バランス、すくみ足、立ち上がり等の目的をすべて満たすとは限りません。困る動作に応じて他の練習を加えます。
運動習慣がなくても、最初から週150分必要ですか?
全員の開始量ではありません。持病、転倒、現在の活動量を評価し、取り組める種目と量から始めます。目標量に向けた増やし方を担当者と決めてください。
自宅での筋トレはできますか?
状態に合う方法であれば、自宅も選択肢です。使う椅子や支持物、負荷、回数、一人で実施できるかを確認します。痛みやふらつきがある場合は種目を見直します。
薬が効いていない時間に練習した方が鍛えられますか?
研究のオフ時評価と、普段の運動条件は異なります。基本は動きやすい時間を使い、薬を自己判断で抜かず、安全に行える時間帯を相談してください。
LSVT BIGが、誰にとっても最も効果的ですか?
改善を示した研究はありますが、全員に最も優れた方法とは決められません。症状、目標、通う負担、練習を続けられる条件まで含めて選びます。
バランス練習をすれば転倒しなくなりますか?
必ず転倒を防げるわけではありません。バランスとともに、すくみ足、薬、血圧、認知、住環境などにも対応します。転倒が増えたら、練習量を増やす前に再評価を受けてください。
リハビリは、進行してから始めるものですか?
診断後から、現在の運動能力と生活目標を相談できます。転倒や介助が必要になるまで待つ必要はありません。状態が変わったときも、方法を見直して続けます。
運動の効果は、何で判断すればよいですか?
時間や歩数に加え、目標の動作、休憩や介助、転倒・ヒヤリ、翌日の生活を見ます。薬の状態や測定条件を揃え、専門職の評価と生活記録を合わせて振り返ります。
運動を、続けたい生活につなげる
パーキンソン病の運動療法には、体力、筋力、歩行、バランスなどを改善するために取り組む価値があります。薬による治療と組み合わせ、本人の目標に合う練習を選ぶことで、日々の活動を支える方法になります。
次の相談では、「続けたい活動を一つ」「今の困難を一つ」「自宅で続けられそうな方法」を伝えてみてください。自分に合う負荷と支援を整え、できるようになった動作を確かめながら、歩く・立つ・出かける機会につなげていきましょう。
参考文献・公的情報
- Osborne JA, et al. Physical Therapist Management of Parkinson Disease: A Clinical Practice Guideline From the American Physical Therapy Association. Phys Ther. 2022;102(4):pzab302. doi:10.1093/ptj/pzab302. ガイドライン本文
- Parkinson’s Foundation / American College of Sports Medicine. Parkinson’s Exercise Recommendations. 2026. 運動の推奨/2026年2月17日の更新発表
- Parkinson’s Foundation / ACSM. Parkinson’s Exercise Guidelines for Exercise Professionals. 2025. 強度・安全性・個別調整に関する専門職向け指針
- van der Kolk NM, et al. Effectiveness of home-based and remotely supervised aerobic exercise in Parkinson’s disease: a double-blind, randomised controlled trial. Lancet Neurol. 2019;18(11):998–1008. doi:10.1016/S1474-4422(19)30285-6. Park-in-Shape原著
- Li F, et al. Tai chi and postural stability in patients with Parkinson’s disease. N Engl J Med. 2012;366:511–519. doi:10.1056/NEJMoa1107911. 太極拳の比較試験
- Chivers Seymour K, et al. Multicentre, randomised controlled trial of PDSAFE, a physiotherapist-delivered fall prevention programme for people with Parkinson’s. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2019;90:774–782. doi:10.1136/jnnp-2018-319448. PDSAFE原著
- Ebersbach G, et al. Comparing exercise in Parkinson’s disease—the Berlin LSVT BIG study. Mov Disord. 2010;25(12):1902–1908. doi:10.1002/mds.23212. LSVT BIGの比較試験
- Parkinson’s Foundation. Exercise and Movement Education Accreditation. PD向けの非接触ボクシング等を含む運動プログラムの案内
- 厚生労働省. こんな時は迷わず119へ
医学情報の確認日:2026年11月7日。海外の運動推奨と、日本での個別のリハビリ計画は区別し、実施内容は担当の医療者と相談してください。

