パーキンソン病で椅子から立ち上がれないとき|動作・筋力・血圧の見直し

椅子・ソファ・トイレからの立ち上がり

立ち上がりを、動作・環境・体調から見直す

椅子からお尻が離れない。何度もやり直す。立てても、すぐにふらつく。パーキンソン病での立ち上がりにくさには、動作緩慢やこわばりに加え、脚の力、椅子の条件、薬の効き方、血圧などが関わります。

「筋力が落ちたから」と一つに決めず、どの場面で困るかを分けると、練習する動作、変える椅子、必要な介助、主治医への相談を選びやすくなります。

急に立てなくなった場合は、普段の症状と分けて考えます。
突然、片側の手足に力が入らない、顔のゆがみ・ろれつの異常、支えなしで立てないほどの急なふらつき、意識の異常や強い呼吸困難があるときは119を優先してください。[8]

「立てない」を、動作の段階に分ける

立ち上がりは、お尻を浮かせるだけの動作ではありません。座る位置を整え、体を前へ移し、脚と必要な支えを使って立ち、立位を安定させる流れがあります。相談では、どの段階で止まるか、痛みや立ちくらみがあるかを伝えます。

困る段階生活での様子相談時に伝えること
準備する深い座面からお尻を前へ動かせない。足を置き直せない。椅子の深さ・沈み込み、足の位置、手を使える場所。
お尻を浮かせる動き始めに時間がかかる。何度も試すが座ったまま。体を前へ移せるか、脚で支えられるか、痛み、薬の時間。
立ちきる途中で膝が折れる。後ろへ座り込む。前へつんのめる。崩れる方向、支えの有無、介助量、普段も起こるか。
立った後目の前が暗くなる。ふらつく。最初の一歩が出ない。立ちくらみと足の出にくさを区別し、起こる時刻や持続を記録。

観察のために失敗する動作を繰り返す必要はありません。普段の安全な場面で分かる範囲を記録し、動作の詳しい評価は理学療法士・作業療法士と行います。

動作緩慢だけでなく、筋力・椅子・血圧も見る

同じ人でも、食卓の椅子と低いソファ、朝と昼、薬が効いている時間と切れかけの時間で、立ちやすさが違うことがあります。次の項目は原因を自己診断する表ではなく、評価を相談するための整理です。[1][4][5]

考えたい要因相談する手がかり対応の方向
動作緩慢・こわばり準備や動き出しが遅い。体や足の位置を変えにくい。動作の順序、合図、可動性、薬の効き方を評価する。
脚で支える力・バランスお尻が浮いても立ちきれない。膝が折れる、崩れる。必要な筋力・動作練習と、支持物・介助を組み合わせる。
痛み・関節の動かしにくさ膝、股関節、腰、肩などが痛くて動作を変えている。痛みの原因と、足・手・体幹を使える範囲を相談する。
椅子や周囲の条件低い・柔らかい・深い座面だけで難しい。手がかりがない。高さ、硬さ、肘掛け、足元、トイレの環境を調整する。
薬効の変動次の服薬前など、決まった時間に動きにくくなる。服薬時刻と動作を記録し、主治医と処方・生活時間を見直す。
起立性低血圧など立った後に目の前が暗い、気が遠くなる、力が抜ける。血圧、薬、脱水や他の病気の影響を診察で評価する。

複数の要因が重なることもあります。例えば、低い椅子で立ちにくいうえに、立った後の血圧低下がある場合は、椅子の変更と医学的な評価の両方が必要です。

立ち上がる前の準備と、動作を整える手順

以下は、普段から自力または教わった介助で立てる人が、方法を相談するときの基本です。転倒を繰り返す、膝が折れる、強い痛み・めまいがある、自分で座り直せない場合は、一人で試さず、実際の椅子で介助方法を評価してもらってください。[6][10]

  1. 椅子と足元を安定させる。動く椅子や滑る床を避け、立つ場所を空けます。飲み物や荷物は先に置き、立ち上がりに集中できる状態にします。
  2. お尻と足の位置を整える。ずり落ちない範囲で座面の前寄りへ移り、両足裏を床につけます。足が前へ投げ出されたままにならないよう、体の下へ置き直します。
  3. 手の支えと合図を決める。必要に応じて安定した肘掛け等を使います。「足を置く」「前へ」「立つ」など、一つずつ短い言葉で動作を分けます。
  4. 体重を足の上へ移して立つ。体を前へ移し、脚と必要な手の支えで押して立ちます。大きく反動をつけたり、前へ深く倒せばよいと考えたりせず、本人に合う量をリハビリで調整します。
  5. 立位が安定してから、次の動作へ進む。ふらつき・立ちくらみがないか確かめてから歩き始めます。めまいや失神しそうな感覚が出たら、移動を続けず、安全に座れるよう助けを求めます。

前かがみの強さには、個人差があります。
体幹が大きく曲がっている、首や腰が痛い、足首が動かしにくい場合などは、同じ前傾姿勢を求めず、座面と支持物も含めて方法を合わせます。

通常の歩行器を引っ張って立つと、歩行器が傾くことがあります。安定した肘掛け等で立ってから歩行器へ持ち替える方法を、担当者に教わってください。立ち上がり用に設計された支持具は、別途適合を評価します。[7]

座るときも、一連の動作として練習する

椅子の位置を確かめ、十分に向きを変えて近づいてから、肘掛け等を使ってゆっくり腰を下ろします。立てても、座るときに落ちるようになる場合は、同じ評価の場で相談してください。[10]

椅子の高さ・硬さ・支持物を合わせる

日常の立ち上がりを楽にするには、本人の体の使い方と家具の条件を合わせることが役立ちます。購入前に、実際の靴や支えで試せると、家での使い方を判断しやすくなります。[4][6]

見直す点確認したい条件
座面の高さ低すぎて膝・股関節が深く曲がっていないか。高くしても足裏が床につき、座位が安定するか。
座面の硬さ・深さ大きく沈み込まないか。背もたれ側から立つ位置へ移りやすいか。
肘掛け・支持物手をつく場所が動かず、本人が押せる位置にあるか。肩や手首の痛みはないか。
椅子の安定性回転やキャスターで動かないか。ぐらつきや、足元の滑りがないか。
トイレ便座の高さ、手すり、衣服操作、立った後に向きを変える広さをまとめて評価する。

高さを変える場合も、柔らかいクッションを何枚も重ねたり、不安定な台を椅子の脚の下へ置いたりする方法は避けます。補高、手すり、立ち上がり補助の機器は、理学療法士・作業療法士や福祉用具の担当者と、固定性・足の接地・介助のしやすさを確かめて選びます。

自宅の工夫だけでは介助の負担が大きい場合は、介護保険・生活支援の相談も検討してください。

薬のオン・オフと、立ち上がりの時間帯を記録する

服薬前、朝、夕方などで差がある場合は、椅子の条件と一緒に薬の時間を残します。「動きやすい時間には立てるが、次の服薬前は難しい」という情報は、薬効の変動を相談する材料になります。

ただし、立ち上がりにくさの全てが薬で解決するとは限りません。薬が効いている時間でも、立ちくらみ、ジスキネジア、痛み、椅子の問題などが残る場合は、それぞれの対応が必要です。薬の調整は主治医と行い、比較のための自己休薬や自己増量はしないでください。[5]

詳しくはウェアリング・オフと、受診メモ・服薬日誌を参照してください。

立った後のふらつきは、血圧も相談する

立ち上がった直後に目の前が暗くなる、気が遠くなる、力が抜ける場合は、起立性低血圧などを考えます。パーキンソン病の自律神経の変化に加え、薬、脱水、他の病気が関わる場合があります。[5][9]

その場で頑張って立ち続けず、安全に座れるよう周囲に助けを求め、主治医へ伝えてください。医療機関では、姿勢を変えた際の血圧などを評価します。失神や転倒のおそれがある人が、一人で立位の血圧測定を試す必要はありません。

「朝か、食後か、入浴後か」「立ってからどれくらいで出るか」「座ると変わるか」「服薬との関係」を残すと相談しやすくなります。水分・塩分の調整も、心臓・腎臓などの持病や制限を踏まえて主治医と決めます。[9]

最初の一歩だけが出にくい場合はすくみ足、バランスを崩す場面が増えた場合は姿勢反射障害と転倒予防も合わせて整理します。

筋力練習と、立ち上がる動作の練習を組み合わせる

APTAの理学療法ガイドラインでは、PDの運動機能に対して、筋力・バランスの練習や、目標とする動作そのものを練習する「課題特異的トレーニング」などを推奨しています。必要な内容は、困る動作と評価結果に合わせます。[1]

立ち上がり練習についての研究

  • Makらの無作為化比較試験:52人が完了した研究では、4週間の視聴覚の合図を使う立ち上がり練習が、通常の運動等と比較され、動作時間などの改善が報告されています。終了2週間後にも効果がみられました。[2]
  • Bhattらの研究:合図を使う練習後に、立ち上がり中の動的な安定性の改善が示されました。ただし、転倒への影響は理論的な安定性の指標に基づく評価で、生活での転倒回数が減ったと直接示すものではありません。[3]

これらは、動作に合う練習を選ぶ根拠になります。一方、全員が同じ声かけで立てる、長期的な転倒や病気の進行を防げる、という意味ではありません。重い障害や認知の問題がある場合への適用にも、個別の評価が必要です。[1]

練習の計画で決めておきたいこと

  1. 生活の目標:食卓、トイレ、外出先など、楽にしたい場面を一つ選ぶ。
  2. 条件:椅子の高さ、手の支え、足の位置、薬の時間、見守りを決める。
  3. 練習内容:脚の力、体の移動、立ち上がり、立位の安定のうち、必要な部分を選ぶ。
  4. 量と休憩:動作が崩れる前に休める回数・頻度を担当者と決める。
  5. 見直し:立つ速さに加え、やり直し、支え、痛み、ふらつき、介助の負担を見る。

「毎日何十回」など一律の回数は設けません。秒数や回数の評価を行う場合も、椅子・上肢の使用・介助・服薬条件を合わせて比較し、日常の安全な立ち上がりでは必要な肘掛けを使って構いません。

運動全体の組み立ては、運動療法・リハビリの効果と計画にまとめています。

家族は、急かすより準備と合図をそろえる

介助が必要な時間帯と、見守りでできる時間帯を分け、本人が使える動きを生かします。複数の指示を重ねず、一つずつ伝え、反応を待ちます。家族が持ち上げる力に頼り続けると、本人と介助者の両方に負担がかかります。[6]

  • 立つ前に、足・手・椅子の位置と、合図を共有する。
  • 腕や脇を引っ張って持ち上げず、本人に合う支え方を実地で教わる。
  • 何度も失敗する、体重を支えきれない場合は、介助人数や用具を見直す。
  • 介助者の腰や肩が痛くなる前に、訪問リハビリや福祉用具も含めて相談する。

移乗ベルト、手すり、立ち上がり補助具、リフト等は、名前だけで選ばず、本人の足で支える力・理解・痛み・住環境と合わせます。介助の詳しい手順は、普段使う椅子やトイレで指導を受けてください。

診察・リハビリに持参するメモ

「立てない」だけでなく、場面と条件を残すと、薬・動作・用具のどこを見直すかが具体的になります。

【困る場所】食卓/ソファ/便座/外出先:__
【いつから・時間帯】____
【止まる段階】準備/お尻が浮かない/立ちきれない/立った後:__
【椅子】高さ・硬さ・深さ・肘掛け:__
【薬】服薬時刻:__/困った時刻:__
【症状】痛み・膝折れ・ふらつき・目の前が暗い:__
【支え・介助】何を使い、どこを助けてもらうか:__
【生活の目標】どこで、どの程度の支援で立ちたいか:__
【今回相談したいこと】薬/血圧/練習/椅子/介助・用具:__

転倒・膝折れ・失神がある、介助が急に増えた、新しい痛みがある場合は、次回の予定を待ってよいかも含めて医療機関へ相談してください。

よくある質問

立ち上がれないのは、筋力が落ちたからですか?

筋力だけとは限りません。動作の始めにくさ、こわばり、体重を移す方法、椅子の条件、薬効、痛み、血圧などを合わせて評価します。

肘掛けを使うと、脚の力が落ちますか?

日常動作で安全のために必要な支えは使って構いません。脚を鍛える練習は、適した負荷と見守りで別に計画します。転びそうなのに手を使わず立つことを目標にしないでください。

椅子を高くすればよいですか?

立ちやすくなる場合がありますが、足が浮いたり、座位が不安定になったりしない高さに合わせます。座面の硬さ・深さ・肘掛けと一緒に評価します。

毎日、何回練習すればよいですか?

一律には決めません。薬の効き方、転倒、痛み、疲労、介助の必要性を踏まえ、動作を保てる回数と休憩を担当者と決めます。

立てるのに、直後にふらつくのはなぜですか?

起立性低血圧やバランスの問題などを考えます。目の前が暗い、気が遠くなるといった感覚と、足が出ない状態を分けて主治医へ伝え、必要な評価を受けてください。

立ち上がれないと、ヤール5度ですか?

椅子から立てないという一つの動作だけでは決まりません。全体の運動症状、歩行・起立、薬が効いている条件などを踏まえて医師が評価します。度数とは別に、今必要な支援を相談してください。

立ち上がりを整え、食事・トイレ・外出の負担を減らす

立ち上がりにくさを分けて見ると、薬の相談が必要なのか、椅子を変えるのか、動作を練習するのか、介助を増やすのかが具体的になります。動作の工夫や環境調整で、今ある力を使いやすくできる場合があります。

次の相談では、いちばん困る椅子、止まる段階、服薬との関係、立った後の症状を伝えてください。「立つ回数を増やす」だけでなく、食卓やトイレでの負担を減らし、本人も家族も続けやすい方法を選ぶことを目標にします。

参考文献・公的情報

  1. Osborne JA, et al. Physical Therapist Management of Parkinson Disease: A Clinical Practice Guideline From the American Physical Therapy Association. Phys Ther. 2022;102(4):pzab302. doi:10.1093/ptj/pzab302. 理学療法ガイドライン
  2. Mak MKY, Hui-Chan CWY. Cued task-specific training is better than exercise in improving sit-to-stand in patients with Parkinson’s disease: A randomized controlled trial. Mov Disord. 2008;23(4):501–509. doi:10.1002/mds.21509. 立ち上がり練習の比較試験
  3. Bhatt T, et al. Effect of externally cued training on dynamic stability control during the sit-to-stand task in people with Parkinson disease. Phys Ther. 2013;93(4):492–503. doi:10.2522/ptj.20100423. 立ち上がり中の動的安定性
  4. Parkinson’s Foundation. Activities of Daily Living:Standing and Sitting
  5. National Institute for Health and Care Excellence. Parkinson’s disease in adults. NG71. 理学療法・起立性低血圧等の推奨
  6. Parkinson’s UK. How to safely provide assistance:専門理学療法士による介助の解説
  7. Chelsea and Westminster Hospital NHS Foundation Trust. Crutches and Walking Frames:歩行器の基本的な安全使用
  8. 厚生労働省. こんな時は迷わず119へ
  9. Parkinson’s Foundation. Low Blood Pressure and PD
  10. Parkinson’s Foundation. Fitness Counts. 2023. Safe Movement Techniques:立つ・座る動作の解説

医学情報の確認日:2026年11月7日。動作や用具の適合は、本人の状態と生活環境に合わせて評価します。